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九州大学山岳部 ブログ 「QUAC blog」

日々の活動、部員の声etc... QUACの日記です。

ラッセル、ラッセルの伯耆大山:弥山西稜

2025年02月05日 | 週末の活動・個人山行記録etc...
(見出し画像: 弥山西陵から見える別山バットレスの雄姿)

 冬合宿が失敗した我々にとって初の冬山である。吹雪の切れ目から一瞬だけ見える白銀の美しさときたら、サングラスの上からでも突き抜けてくる。美しい。この世界に足を踏み入れられた幸福は、名状しがたいものがある。



 社会人山岳同人 flambé のKさんと(違う苗字だが)Kさんにご縁で伯耆大山に連れて行ってもらえる幸運をつかみ取った。参加メンバーは筆を執っている私、木下と、森である。どちらも一年、冬山何ぞ行ったことがない顔ぶれだ。もともとの計画では天気や雪の状態が良ければ天狗沢から上がる予定であったが、気温上昇と天気の悪さを鑑みて代案の弥山西稜に取り付くこととなった。ドラッセルとのこと。いまだにラッセルをまともにしたことがない我々にとって願ってもないことだった。

 前日入りし、車中泊したのち、大山寺から登ってゆく。途中の避難小屋から西稜取り付き近くまではトレースがあるものの、これまでに経験したことがない雪の深さをしている。ニコニコが止まらない、森を見るとこちらも良い笑顔だった。取り付きに向かう間、コンパスの使い方を教わった。地図と地形のすり合わせと取り付きの方角を細かくきる。思い返せば、コンパスは私が研究発表で夏前にやったきり、まともに使った覚えがないし、使っている部員を見た覚えもない。しかし、この基礎技術がなければ、間違った尾根に入り込んでいたかもしれないし、ホワイトアウトしたら、どこにむかえばよいかわからなかっただろう。今後の山行では、積極的に使って慣れてゆかねば。(管理人へ 三月の突然生えた例のアレ。コンパスの練習の良い機会では?)

 さて、西稜の取り付きが近づいてくるとついにトレースがなくなった。ここからは念願のラッセルタイムである。膝上から腿ぐらいのラッセル。これがまあ面白いぐらいに進まない。特に傾斜が強まってくるとより一層。おかしい。登っているはずなのに、足元が崩壊して全然前に進まない。畜生ッ。後ろを見たら、社会人の人たちはひょうひょうと上がってくる。途中で教えてもらったのだが、ピッケルで足場を作ってそこに足をおいて登っていたらしい。先人って偉大ですね。


(ここはなぜか雪が固くて楽々行けた。ここを直登気味に登って行った。)

西稜はバリエーションルート、進む道は自分たちできりひらかねばならぬ。ということで、どこから取り付こうか考えながら上がる。この場合、木が生えているところが良いとのこと。なぜと聞くと、生えていない所は雪崩などで根こそぎ持てゆかれているから、らしい。



ハイマツといい、やはり木は山岳部の友らしい。登りやすそうなとこに上がったつもりだが、どうも取り付きを間違ったらしい。本来は大きく左に巻いていくところを直登してしまった。木をひっつかみ、アイゼンで木を踏みつけながら上がる。木が行く手を阻んでくる、悪い。お前、やはり敵だったのか…?

沢のぼりで鍛えた藪漕ぎ能力を存分に発揮してなんとか突破。ザイルを出して2ピッチほど上がる。木と雪の斜面が行く手を阻む。相変わらず、雪は柔らかく深い。そして、私のラッセル技能は一向に上がらない。体力でごり押していく。天気もあまりよろしくなく、風も結構強い。冬山の醍醐味を早々から味わっていく。


 

だが、そんなことはどうでもいいくらいになる問題があった、アックスに。こいつの金属の柄にテープを巻いていなかったせいで、信じられないくらいに手の体温が奪われる。テムレスに穴ほげてんのかと疑うほどに。指先が人生で一番冷えた。隙あらば、拳を握ることでこの冷えに対抗する。この感覚がなくなると凍傷になるに違いないという妙な確信を得た。テープは巻いた方が良い。間違いなく。 

その後、ザイルがいらない程度の雪稜、岩稜をごりごり登っていく。楽しい。先々週、阿蘇でちょっとヤバい岩稜を上がったからだろうか、私も森も特に問題なく、雪と格闘しながら上がっていく。が、指先が…。この恨みは大きい。


(指先から体温を奪ってきた張本人 柄に雪が凍り付いてくる) 

途中、晴れ間が出て、見出し写真の別山バットレスが吹雪の向こう側から顔を出す。

美しい。絶対登ってやるぞと思わせてくれる。

そのさらに奥の夏道には、幾人もの登山者が。そうこうしているうちに再び白の向こう側に消えていった。

さて、我々学生は技術など皆無なので、ザイルを出してもらっていた都合上、時間がかかってしまった。完全にザイルがいらないような雪稜に上がり込む時には、後続の福山から来られたパーティーに追い付かれてしまう。ところが、なんと我々にラッセルさせてくださるという。ありがたい。ノートレースの雪稜をラッセルすることができた。


(先行するわれら学生組)

 後行の人たちに遅いぞと言われんようにバリバリラッセルしていく。やはり先陣を切るのは楽しい。お互いに笑顔が止まらない。しかし、ここも雪深い。極めつけには、雪の下ぽっかり空いている木の枝の空間にハマりやがる。そこは、臨機応変に、森と先頭を交代しながら、先へ先へと急ぐ。また、弥山山頂への稜線につながっている尾根を探しつつ、楽なところを突きつつ登る。ものすごく良い経験になった。ラッセルの技能も少し上がったらしく、初期に比べて速度が見違えて上がっている。気づいたら、後続をだいぶ引きはがしていた。技術はないが、せめて体力と気力はあることを示せてよかった。山岳部はこうありたいものだ。 

ラッセルをしばらくすると、あれほど冷たさにあえいでいた指先が、熱を取り戻していた。寒くなったら、ラッセル。これに限る。


(どう抜けるか思案中)

そしてそのまま、弥山へ通じる稜線へ飛び出て、弥山山頂碑へ。



晴れ間に祝福されながら、山頂碑で写真撮影。ものすごい達成感が身を包む。

さて、踏み固められ、信じられないほど固い夏道を下る。もはや、足が雪で沈まない。まだ、山の中だが、今までいた場所が別世界であったように思える。個人的な願望だが、今後もこういう山行をしたいものだ。



途中、6合尾根と7合尾根の間くらいから下り、この山行を締めくくった。眠気で帰りの運転で事故すれすれの運転であったのは、当然の帰結。

大変充実、楽しく、学びしかない山行だった。たった一つの心残りは、ヤバい所をリードしてもらったこと。しっかり実力をつけて、自分らで抜けられる腕をつけられたら、さらに充実するに違いない。

最後に、flambéのお二方、連れて行っていただいてありがとうございました。人生で記憶に残る山行となりました。また、私たちに最後道を譲ってくださった、心優しい方々にも感謝を。

 

お付き合いありがとうございました!

それでは。



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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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オリーブオイル (ストライベック)
2025-05-10 11:11:05
最近はChatGPT(LLM)や生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、イデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術とは違った日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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