奥坂まやの第3句集「妣の国(ははのくに)」(ふらんす堂刊)
を著者にいただいてから今日まで、私は何度も句集を読み返してきた。
わからない句、感じる句、いろいろありました。
私が気に入った俳句を次に書きます。
Ⅰ
ゆふがほはいつも待ちくたびれてゐる
Ⅱ
柘榴の実渡す一個の未知として
まつすぐに此の世に垂れてからすうり
Ⅲ
十二月コップに水の直立す
わが自我のごとき鉄塔雪降り来る
白き血しろくかがやき年迎え
いつさいの音のはてなり雪ふるおと
からあげ揚ぐる音潑溂と寒に入る
寒中やポスト慇懃無礼に赤し
裸木として晴天に拮抗す
Ⅳ
滑走路ますぐにさびし卒業す
るるるると先の世の音風車
くりいむぱん春らんまんのかたちなる
Ⅴ
ゆふがほの用心深きひらきやう
Ⅵ
ずぶ濡れの電車が着きぬ曼珠沙華
ぎんなんの稜(かど)小賢しき尖りやう
鶏頭花聖なる愚者のごと立てる
いちじく裂く六条御息所の恋
Ⅶ
剝きたての蕪愛慾の白さなり
姿見へ激しく豆を打ちにけり
Ⅷ
海湛へ地球は孤独さくら貝
ふゆざくらみんながとほりすぎてゆく
ひらがなを書き散らしかげろふに棲む
Ⅸ
いきいきとノート真白し夏初
月光に愛されて滝ますぐなり
もも色のほのと水母の生殖器
見たことはなし草臥れてゐる蟻を
炎暑なり吊玉葱はにこにこと
奥坂まやの句が好きになりました。
ものごとを見る視線がするどく、そして正しい。
九想話のブックマークに「鳥獣の一句」を置きました。
取り上げた句に対する文章がいい。