いつも働いている
第二工場で生産する製品の受注が少ないので、
先週までの12月の3週間、
私は第一工場の支援メンバーとして働いた。
そこで、いじめを知った。
Hという30歳を少し過ぎた男は、
仕事が遅く、ミスも多いと以前から噂は聞いていた。
その彼が、いじめの標的になっていた。
私が働いた1勤の班は、
班長が34、5歳で、
1人11月に入社した39歳のひとを除いて、
みんな若かった。
正社員が4人、派遣社員が4人。
派遣の一番年上が35歳、下が19歳。
Hは、正社員はもちろん、派遣社員からも
いじめられていた。
入社したばかりの39歳のひとはしないが、
その他のやつらほとんどが、
Hにひどい言葉をいっていた。
行ったばかりで第一工場の仕事のようすが分からない、
どんくさい49歳の私にも
ひどい口のきき方をするぐらいだから、
まして長年やってきて仕事の遅いミスの多いHには、
虫けらにしゃべるようにののしりのまじる話し方をしていた。
わきで聞いていて、哀しくなってくる。
ある日5時になり、
仕事が終わってトイレに行ったとき、Hがいた。
隠すようになにげない態度で用をたし、
手を洗って出ていったが、
どうみても彼は泣いていた。
30過ぎた男が、ションベンしながら泣いていた。
その翌日から2日間、彼は会社を休んだ。
彼がいないと休憩時間は、
Hへの悪意に満ちた会話で盛り上がっていた。
派遣のあるひとが私にいった。
「いつもはHさんが可哀想だと思っているが、
みんながひどいいいかたしてるの聞いてるうち
気がつくと自分も同じ態度をとってることに驚いた。
群集心理って怖いな」と。
昨日、第二工場でよく休むひとが休んだ。
仕事にならないので、第一工場に応援を頼むと、
邪魔者あつかいされているHがきた。
「一日といわず、ずーっとお貸しします」
と第一工場の班長がいったそうだ。
第二工場で働いていたHは楽しそうだった。
いじめるひとがいないからだ。
仕事が終わって、私が日報を記入していると、
温かい缶の緑茶を自販機で買ってきてくれた。
仕事も終わり帰っていいのに、
しばらく一緒に坐っていて、
楽しそうに私たちと話していた。