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「リーマンショック前夜」・・・笑い話では無いかも知れない

2016-06-01 03:51:00 | 時事/金融危機
 

■ 「リーマンショック前夜」で笑うなかれ ■

安倍首相がサミットで使った「リーマンショック前夜」という表現、「アメリカ経済にバブルの兆候は見られないでは無いか」といった指摘が内外から有り、安倍首相はすっかり笑いものになってしまいました。

しかし、世界に目を転ずれば「新興国バブル」はまさに崩壊の途上にあるとも言えます。リーマンショック以降、世界の中央銀行が提供した巨大な緩和マネーは金利に引かれて新興国投資に流れ込みました。

中国、香港、シンガポール、マレーシア、フィリピン・・・これらの国では高層ビルが雨後の筍のよう建ち日本のバブル期を彷彿とさせていました。

しかし、バーナンキショックの頃から雰囲気が変わり始めます。私はこれらの国の建築物件の仕事もしているのですが、だんだんと仕事の依頼が減り始めました。シンガポールのオーチャードストリートはさながら銀座か表参道の様に多くの観光客や買い物客を集めていましたが、最近は閑散として来ました。高級店の客入りも悪くなっています。

■ アメリカの金利に翻弄される新興国 ■

バーナンキショック、FRBのテーパリング開始、FRBの0.25%の利上げ・・・これらのイベントが発生する度に新興国から資金が流出しては、しばらくして又金利を求めて資金が徐々に新興国に戻る事を繰り返しています。

FRBが利上げに踏み切ったとはいえ、先進国のトレンドは超低金利のままで、先進国内の投資でまともな金利は得られません。結局、資金は恐る恐る新興国投資に戻って行くのですが、新興国の成長力も鈍っているので、ここで得られる金利水準も低下しています。

米経済が絶好調かどうかは別として、FRBが6月に利上げを成功させ、さらに12月に利上げをする様だと、資金循環に明らかな変化が出るはずです。

現在は先進国のタダ同然の金利でリスクを軽視した投資が継続していますが、金利が上昇するにつれてリスクが意識される様になります。どこかの時点で、米国債や米国内の投資で安全に資金を運用しようという流れに代わると、新興国から一気に資金が流出してバブルが完全に弾けます。

ヘッジファンドなどがこれを見逃すハズは無く、為替市場で新興国通貨が売られ、新興国の株式も売り浴びせられる事となります。

後は底値で株や不動産を買い漁って新興国バブルの遺産をアメリカや先進国のファンドや投資家達が格安で手に入れる・・・そう、まさに日本のバブル崩壊やアジア通貨危機で起きた事が再び起こるのです。

■ 新興国バブル崩壊によって割高になる新興国通貨 ■

アジア通貨危機の原因はタイやその他の国々が当時ドルにペックしていた事にありました。それまでのドル安からドル高に転じた事で、アジア諸国の通貨がその実力以上に値上がりした事にヘッジファンドが付け込んだのです。

現在は当時と異なり、各国の為替レートは許容範囲内でドルに緩やかにペックしている様な状況で相場は弾力的です。むしろ、輸出産業が発展した影響で、韓国を始めとして自国通貨安政策を取っています。

最近の通貨下落は資源国から初まりました。世界経済が飽和して工業生産量が減り始めたので、資源国通貨が売られました。ブラジルのレアルやアルゼンチンのペソ、ロシアのルーブルなどのが大きく下落しました。今年に入ってから若干戻していますが、危機が意識される度にこれらの資源国通貨は売られています。

アジアの新興国の通貨下落はこれから本番を迎えると思われますが、その引き金は「バブル崩壊」でしょう。これによって新興国の成長率が激減すれば、通貨の割高感が一気に高まります。資源国と異なり、これらの国々は工業製品の輸出も盛んですが、食糧や資源の輸入も多く、通貨安による輸出増のメリットよりも輸入コストの増大が国民の生活を直撃し、政情が不安定化する要因にもなります。

■ 日本は通貨高か通貨安か ■

日銀の超緩和的金融政策で通貨安に誘導している日本は新興国通貨危機が発生しても安心・・・多くの人がそう思っているでしょう。

しかし、ここに来てアメリカが円安を牽制し始めた事が気掛かりです。さらに安倍政権が消費税増税を見送ったり、ヘリコプターマネーに近い財政拡大で財政規律を緩める動きを示唆し始めた事で、「円のリスク」が水面下で上昇している様に感じられます。

米利上げ予測で直近は円安に動いていますが、私はジリジリと円高への調整が進み一度100円程度まで円が買い上げらると妄想しています。この過程で、外資は日本株などの日本の資産を売り抜けるでしょう。

その後は急激に「日本の財政の継続性を問題視」され始め円が一気に売られて120円台まで行くのでは無いか・・・・。或いはそれを超えて一気に150円台までオーバーシュートするかも知れません。ここら辺で投げ売りされた日本の資産を外資が美味しく頂く・・・こんなシナリオを妄想しています。

■ 新興国危機は「リーマンショック」に成りうるのか? ■

では、新興国危機や日本の危機がリーマンショックに成りうるのか・・・。

リーマンショックとは拡大し過ぎたデリバティブ取引が一気に収縮した事で始まった危機です。誰もが債務を早めに清算しようとした事でドルの需要が一気に高まり、銀行がドルを抱え込んだ事でドルの流動性が一瞬にして枯渇した事から発生したシステミックリスクです。

はたして新興国のバブルの崩壊がリーマンショック同様の金融システムに壊滅的な打撃を与えうるのか・・・多分、予測し得る危機ではこれは発生しません。

■ 何だかユーロ圏の銀行が怪しい ■

意外に盲点なのはヨーロッパの金融セクターの様な気がします。南米などの資源国は歴史的にヨーロッパとの繋がりが深く、南欧諸国の金融機関は南米への投資が多いはずです。

さらに、リーマンショック時にデリバティブ商品の6割を保有していたのはヨーロッパの金融機関です。彼らはこの負債を「飛ばし」に近い形で隠しているはずです。

さらに、ギリシャ絡みのデリバティブの保有が多いドイチェバンクの名前が上がる機会が増えています。前回のユーロ危機の様な事が発生し、南欧債の金利が上昇し始めると、ユーロ危機の再来となる可能性が有ります。

■ アメリカは勝ち組か? ■

新興国のバブル崩壊に伴う通貨危機にしろ、ユーロ危機にしろ、その引き金はアメリカへの資金還流によってその他の地域の流動性が減る事で発生するはずです。

その時にアメリカが唯一の勝者と成りうるのか・・・。多分答えはNOでしょう。アメリカの金融機関も相応のリスクは抱えていますし、依然として債権市場は割高(金利が安い)です。ダウも過剰流動性の受け皿となる事で価格を維持しているに過ぎず経済のファンダメンタルを反映した物では在りません。

そもそもアメリカの好調な企業業績はリーマンショックによって低下した低い賃金に支えられており、結果として中間層の購買力は大幅に低下しています。ところが所得が低下した人達も低金利でローンが組めるので、自動車ローンやクレジットカードなどでサブプライムローンに近い状況が発生しています。FRBは失業率ばかり気にしていますが、雇用の質が大幅に低下している事から目を背けています。アメリカ経済のファンダメンタルは経済統計とは乖離しているはずです。

きっと前回のリーマンショック同様に大統領選終盤に掛けて危機が拡大し、その混乱を収束出来ると期待される人物が大統領になるのでは無いか・・・。


前回選挙ではオバマが「CHANGE」と連呼して当選しましたが、今回はトランプが「アメリカ一国主義」と叫んで当選しそうな気もして来ました。


安倍首相がサミットで発言した「リーマンショック前夜」という表現、あながち笑い話では無いのかも知れません。まあ、洞爺湖サミットで危機を見抜けなかった日本の官僚が「意地」を見せたかっただけなのかも知れませんが・・・。




昨日予告した「ゆうちょ銀行」に関する妄想は次会に・・・。