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移民によって長期衰退を防いだイギリス・・・移民排斥の表と裏

2016-06-27 04:34:00 | 時事/金融危機
 

■ EUと移民 ■

イギリスのEU離脱の原動力となった「移民排斥」意識の高まり。日本に居てはその実体は今一つ理解出来ませんが、イギリスでは社会的に切実な問題となっていました。

EUは人と資本と商品の移動を域内で自由にしました。EU加盟国であればビザ無しで入国出来るシステムは従来の「国境で仕切られた国家」の定義を大きく覆すものでした。

その結果、ユーゴスラビアやハンガリーといった後進ヨーロッパから大量の移民がドイツやイギリスに流入します。イギリスでは学校の生徒のほとんどが移民系になった地域も出てきます。

■ 移民による経済効果 ■

移民の悪い面がクローズアップされがちですが、移民による経済効果は確実に存在します。

1)企業は安い労働力を確保できる
2)若い労働力は同時に消費者として旺盛な購買力を生む
3)イギリスでは人口増加を受けて住宅価格などが上昇した(ロシアからの投資も有るが)

イギリスはリーマンショック後も2%前後のインフレ率を維持しており、FRBと同様に出口戦略に舵を切っています。





老いた大国のイメージの強いイギリスですが、移民の流入で人口は徐々に増加し、一方で高齢化の影響は日本などに比べたら非常に緩やかです。中長期的にはイギリスに移民した人達が経済成長の一翼を担って行きます。


■ 移民に職業を奪われる・・・ ■


(世界経済のネタ帳 より)

「移民に仕事を奪われる」というのがイギリスを始め労働者の恐怖する所ですが、失業率推移を見ると「イギリス病」などと言われた時代に比べ改善しています。リーマンショック後も2012年頃から失業率は顕著に低下しており、現在の5%は自然失業率に近いレベルでしょう。

イギリスでは既に製造業は衰退していますから、移民の多くがサービス業に従事していると思われますが、賃金の低い仕事をイギリス人労働者と奪い合う結果となります。

ただ、大量の移民、それも労働者の流入は国の中に新たな発展途上国を取り込む様なものですから、市場というパイも同時に拡大して行きます。極端な例で言えば、移民が一地域に集中した住んだ場合、そこに新たな街が生まれ需要が創出されます。

■ ある程度の移民を確保したからEU離脱 ■

国家というのは若者が少なくなれば衰退し、国家内で競争が減れば衰退します。かつてのイギリスはこの道を歩んでいました。その後、金融立国への転身で表面的には復活したかに見えますが、地方経済は日本同様に衰退しています。

一般的に言われる様に移民は社会保障コストを増大させます。特に移民したてで英語もろくに話せない様な人達はまともな職に就けません。それでもスーパーのレジ打ちや、飲食店の店員など比較的簡単な職種から彼らは職を得て行きます。この様な人達の持つ「ハングリー精神」は国家にとってプラスに働きます。

ただ、限度を超えた移民の流入は社会を不安定化させますから、イギリスとしては「安い労働力も確保したし、そろそろEUに残留するメリットも少ない」と判断したのかも知れません。

■ シリア難民はドイツの企業にとっては安い労働力 ■

ドイツにとっても同様です。ドイツの経済発展の原動力はEUやユーロの拡大によって後進ヨーロッパの安い労働力を確保出来、同時に市場が拡大した事に在ります。それでも後進ヨーロッパの人件費が上昇すれば、もっと安い労働力を欲する様になります。

シリアや中東からの難民は明らかにブローカーが仲介してヨーロッパに送り込まれていますが、彼らは一番安い労働力として、行った先々の国で労働力を提供する事になるのでしょう。

■ 不法移民を受け入れたオバマ政権 ■

移民を使役する国家としてはアメリカはさらに上手です。メキシコ国境から大量に移入する移民はアメリカ社会に安い労働力を供給しますが、「不法」故に社会保障の対象にはなりません。そして邪魔になれば強制送還されます。

オバマ大統領は大統領令によって不法移民が一定の条件を満たせば就労許可を与えています。

1)アメリカに5年以上滞在していること。
2)アメリカ国籍あるいはグリーンカード保持者の子供がいること。
3) 犯罪歴調査に通過すること。
4)金を支払うことに同意すること。

アメリカ社会の底辺はこれら不法移民の安い労働力で支えられています。一見人道的に見えるオバマの決定は、実はかなりシタタカな計算が働いているのです。

■ 隠れ移民の巣窟、日本 ■

アメリカ以上に姑息な移民政策を実施している国が在ります。それは日本です。最近、コンビニの店員に南アジア系の人が増えています。これはコンビニが外国人実習生の職種に加えられた影響です。

一時期多く見られた中国人実習生は、中国の賃金の上昇によって日本を敬遠する様になっています。安い賃金でも喜んで?働く人材として、ミャンマーやバングラディシュやインドから人材を日本に送り込む日本人の業者が沢山あります。

彼らは明らかに移民労働者ですが、「研修生」の名で呼ばれ、低賃金の労働をさせられています。研修生ですから研修期間が終れば速やかに帰国しなければなりません。

最近、我が家の近くのファ○マでも、早朝や深夜の店員は南アジア系の人達です。一方、駅前の西友から中国人研修生の姿は大幅に減っています。

バブルの時代から日本は入国規制を意識的に緩めるなどの方法で、不法な外国人労働者を密かに使役して来ましたが、彼らは定住出来ないので、景気が悪くなると知らぬ間に消えていました・・・・。

こんな日本やアメリカの「隠れ移民政策」に比べ、ヨーロッパは「モラル」が存在します。移民は正規に国家として受け入れているのです。


■ 移民の負のコストを国家に押し付ける資本家 ■

移民問題は中期的には国家の衰退を食い止めますが、彼らが高齢化して社会負担となる頃に移民政策の悪い面が噴出します。ヨーロッパはこの問題から逃れられません。

しかし、移民を安く使役した企業や資本家はこのコストを国家や国民に押し付けます。本来は税金という形でコストを負担すべきですが、グローバル化の時代に企業への課税をいたずらに高くする事は出来ません。

さらにはタックスヘブンなどを利用して利益の一部は国家や国民に還元されません。

■ 経済成長の源は人口だけれど・・・ ■


クルーグマンも「最近は人口の増加こそが経済発展の言動力」的な発言をする様になり、リフレ政策を主張していた頃よりはマシな事を言う様になってきました。

一方で、不健全な人口拡大は将来的な社会不安の要因となり国家を衰退させます。アメリカなどは表向きは健全な移民政策を成功させていますが、それでも裏では不法移民を便利に使役しています。

日本の少子化に歯止めが掛らない事は明らかですから、政府はどこかの時点で移民を受け入れざるを得ないのですが、移民問題の「最適解」は世界中探してもなかなか見つかりません。日本の外国人研修生制度は一見上手い方法に見えますが、彼らが社会保障費を負担したり、充分な所得を裏付けにして消費を拡大しない限り、単に「企業の為の安い労働力」のみの存在で、経済発展には繋がりません。

TPPを切っ掛けにどの様な労働市場の開放が要求されるか分かりませんが、日本の移民問題も外圧をテコに動き始めるのでしょう。


<追記>

上出のイギリスの人口動態予測はコンスタントに移民が流入する事を前提としていると思われるので、EUを離脱して移民をシャットダウンすると高齢者の比率が増大しはじめるでしょう。

そこでイギリスはEUと移民受け入れ制限の交渉を始めるのでは無いでしょか。EUにイギリスが残留する条件として、移民の年間受け入れ制限を提示するのでは無いか。

国民投票の結果は賛成反対が拮抗していますし、離脱賛成派は移民問題でEUが妥協すれば離脱反対に回る国民も多いでしょう。

今回のイギリスの国民投票はトランプの最初の切り札を出しただけなのかも知れません。未だ手元には何枚もチートなカードが温蔵されている?

イギリス国民はメディアに良いように踊らされている・・・・そんな気がする月曜日の朝。