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水郷地帯を行く②・・・「日本一美味しい味醂」と「日本一まずい日本酒」

2016-06-09 06:21:00 | 自転車/マラソン
 

■ 醸造の街 佐原 ■

前回に続き、佐原の街を行きます。

伊能忠敬旧宅から小野川をさらに遡ると古い土蔵群が現れます。





この味のある建物は「与倉屋大土蔵」と呼ばれていますが、かつては醤油蔵だったそうです。昨日も書きましたが、北総の大稲作地帯の真ん中に在り、利根川水運で大消費地の江戸と繋がっていた佐原や神崎は日本酒や味噌、醤油の一大産地でした。往時には佐原だけで酒蔵が35件、醤油蔵が14軒もあったそうです。今では醤油蔵は委託製造(大手の下請け)の1軒を残すのみとなっています。

現在、与倉屋の土蔵はイベントやコンサートの場として利用されている様です。倉の内部は柱を極力排した「小組作り」という構造で、梁が複雑に組み合わされています。ネットに写真が紹介されていたのでお借りします。



■ 小野川沿いは振るい建物の博物館 ■

かつて「お江戸見たけりゃ佐原においで」と言われた「小江戸・佐原」。今でも小野川沿いには江戸時代や明治初期の建物が多く残されています。



こちらは明治元年に建てられた白壁の土蔵。現在はギャラリーとして使われています。



忠敬橋の袂で今も営業を続ける中村屋商店は安政2年(1855年)の建築。荒物屋さんです。



その向かいにある祖老舗蕎麦やの「小堀屋本店」。昆布を練り込んだ真っ黒な「黒切そば」が有名ですが、いつも行列していて入れません。



小堀屋の並びは古い建物が何軒か並んで残っています。



小腹が空いたので、小堀屋の前のジェラート屋さんでちょっと買い食い。



これ何だか分かりますか?何と、「醤油ジェラート」。うっすらと香る醤油の匂いとほのかな塩味がなんとジェラートに良く合います。一度食べる価値はあるかも。

■ 「日本一の味醂」 ■

かつて30軒以上軒を連ねていた佐原の酒造も現在は2軒を残すのみとなっています。その一軒の馬場本店は忠敬橋から100m程県道を進んだ先に在ります。かつて勝海舟が一カ月逗留した事も有るという老舗です。



煉瓦の煙突が時代を感じさせます。蔵の見学は問い合わせとなっているので、予約が必要ですが、敷地内には自由に入る事が出来ます。昔の酒造道具が展示されています。





勝海舟にちなんだ大吟醸酒も有りますが、何と言っても馬場本店で有名なのは「日本一美味しい味醂(みりん)」。

国産もち米100%で昔ながらの製法で作られる味醂は宮内庁御用達で、腕利きの料理人達にも人気の一品。糖類を添加していないので、サラリとした上品な甘さとクセの無い香りが特徴です。お土産に2本買ってリュックに詰めます。



■ 南部杜氏の頭領が醸す大吟醸、「東薫酒造」 ■

馬場本店から数軒先に「東薫酒造」があります。千葉では割とメジャーな酒造で、大吟醸の「叶」は百貨店でも売られる大吟醸の名酒です。東薫酒造は先般、JR東日本の千葉県キャンペーンのポスターにもなっていたのでご記憶の方もいらっしゃるのでは?

コンクリート製の煙突は「東」の字がかろうじて読み取れる状態。



実は東薫酒造さんは酒蔵を予約無しで見せてくれる良心的な酒造さんです。30分に1回程度行っている様ですが、今回は私一人だけ。サイクルジャージでは失礼かと思いました、快くOKしてくれました。

蔵の入り口は「にじり口」になっています。外部の空気をなるべく入れない様にする配慮でしょうか。



蔵の中はヒンヤリと涼しく、薄暗いので慌ててサングラスを外します。巨大な鉄製の醸造タンクが並んでいますが、内部はホーロー引きになっています。これ一本で一升瓶で3700本以上入るそうです。落ちたら文字通り「酒に溺れ」そうです。

説明してくれたのは入社1っか月目の可愛らしい女性社員。カンペを見ながらの初々しい説明でした。(サイクルジャージ姿の怪しいオヤジに御付き合い下さり有難うございます。)



展示室には東薫酒造の数々の種類の日本酒が展示されています。一押しはやはり「大吟醸 叶」。南部杜氏400人を束ねる名杜氏の及川恒男氏の力作です。兵庫県産の山田錦を35%まで磨いて作られる大吟醸は「日本新酒品評会」の金賞を15回受賞しています。

東薫酒造のネットから宣伝文句をお借りします。

「味・香り・すべてにバランスが取れた芸術的な酒。淡麗でまろやか。馥郁(ふくいく)とした香りが口中に広がり、飲む程に吟醸酒の風格が漂う。」





この蓋は「もろみタンク」の上部。この床下に巨大なタンクが並んでいます。作業の安全の為に総床張りとなっています。








床下に並ぶ巨大なもろみタンクですが、その周りをビニールホースがグルグル巻きにされています。これは及川氏が考案したもろみの冷却装置で、ホースの内部に2℃の冷水を通してもろみを冷却します。





こちらはもろみを搾る圧搾機。槽と呼ばれる装置で、この場所は槽場(ふなば) と呼ばれます。古い槽は現在は「叶」を搾る時だけ使用されるそうで、搾り加減で味が変わってしまうので、慎重に作業は進められるとか。



こちらは近代的な圧搾機で、一度の大量のもろみを搾る事が出来ます。



蔵の出入り口近くには「洗い場」があります。ここで洗米をしてからお米を蒸します。精米は精米所で指定の精米歩合にされて納品されるそうです。



蔵を出ると杉玉が飾られています。酒蔵や酒屋さんには無くては無いものですが、実はこの杉玉、新酒を仕込んだ時に毎年新調されるそうで、新しいうちは緑色をしているそうです。最近では蔵全体を空調して年中仕込みが出来る環境を整えた酒造も有りますが、基本的には日本酒の仕込みは冬場。その頃は杉玉も緑色だったのでしょう。



蔵の見学が終ると、お待ちかねの試飲タイムですが・・・自転車なので・・・舐める程度に留めます。「叶」だけは300円と有料ですが、そのお味は・・・「磨き上げられたキレイなお酒」としか私のボキャブラリーでは表現できません。

日本酒ブログで有名な「空太郎」さんも「叶」を飲まれて「日本を代表する大吟醸の一つ」と評価されていますので、きっとチョー美味しい部類に入るのでしょう。

最近では千葉県内のイオンのリカーショップでも見かけますし、高島屋など百貨店も販売している様なので、興味を持たれた方は是非。4合瓶で3800円でネットでも手に入る様です。

私は自転車なので、背中で大吟醸が熱々になる事は避けたい・・・。そこで、ここでしか手に入らないであろう1986年醸造の古酒と、吟醸酒「二人静」の生貯蔵種の小瓶を購入します。ワインの様なほのかな甘口の「二人静」は家内にお土産。

東薫酒造の皆様、色々とありがとうございました。

■ 神崎町も負けてはいません ■

さて、佐原を後にして、利根川の土手の上を走って神崎町に戻ります。行きは追い風、帰りは向かい風10m/s。・・・進みません・・・。

ようやく到着した神崎町。ここには成田の「鍋店(なべたな)」の醸造場が有ります。鍋店は千葉県最大の酒造だと思いますが、「仁雄」と「不動」という二つの銘柄が有名です。



実は今回の目的は鍋店さんでは有りません。その近くに在る「寺田本家」が目的の酒蔵。





寺田本家は25代続く老舗の酒造。先代の24代目当主は娘婿だった様ですが、その頃は大手酒造に樽売りする典型的な地方の小さな酒造の一つだったそうです。日本酒離れが進む中で経営も大変だった様です。

24代目当主はトンカツなどが大好きと言う食生活を送られていた様ですが、病気になって医者に勧められたのが玄米食。これを続ける内にみるみる体が健康になった事から、玄米のお酒が造れないか挑戦します。

ところが、玄米は表面を硬い皮で覆われているので、なかかな酵母菌が内部に入る事が出来ません。玄米を砕いてみたり、古代の酒の様に口に含んで咬んでから吐き出してみたりと試行錯誤を繰り返しますが、いっこうに上手く行きません。

そんなある日、伊勢神宮で出会った手法が「発芽玄米」を使う醸造方。ビールの麦芽も同じ様に発芽させて醸造しますが、これが成功します。出来上がった玄米酒は薄黄色に濁り発泡するもの。それをビン詰めして「むすひ」という名で売り出しました。

その独特の味わいに「日本一まずい日本酒」との評価が付きますが、一方で日本酒通の間で「古代の日本酒はこうだったに違いない。一度は飲むべき酒」との噂が広がったそうです。さらには自然食マニアが注目します。今では日本酒愛好家の間ではちょっとした有名なお酒になってしまいました。

24代目は玄米種の他に鎌倉時代の製法で醸造した「醍醐のしずく」や、無農薬米のお酒「五人娘」など、自然なお酒作りに拘ります。自社栽培の無農薬米のお酒も有る様です。自然食ブームの追い風に乗り、今では千葉県でも有名な酒造の一つになっています。





今回は直販所が閉まっていたので、お隣のスーパーで「むすひ」を購入。これもリュックに詰めます。

佐倉で買ったソラマメ、味醂が二本、日本酒の小瓶が二本、4合瓶が一本・・・・重たい・・・とても自転車で運べる重さでは有りません。ソラマメなんてリュックの外に縛りつけた状態です。

そこで、「下総神崎駅」から輪行で帰る事に。日本酒が温くなる前に家に付きたいので。(本当は向かい風に心が折れただけですが)

そんなこんなで本日の戦利品。



■ つまみに困る玄米酒。 「小アジの南蛮漬」けを合わせてみました ■

ところで、ネット情報によると玄米酒の「むすひ」は、その独特の味わい故につまみに困るとの事。皆さん色々と挑戦されている様ですが、「中華料理が合いそうだ」との情報を信じてみます。

帰宅して汗を流し、お酒を冷蔵庫に入れてから、近くのスーパーで小アジを5パック購入します。頭とワタとセゴイを取って、低温で3回、骨までカリカリになるまでから揚げにして、南蛮酢と野菜の中に熱い内にジュウーーと入れます。

から揚げの時点で骨までカリカリなので、一晩待たずに食べられます。ソラマメも塩茹でして、さあ、試飲タイムです。





家内は一口飲んで・・・「ワ!!何これ、不味い・・・」 予想通りの反応です。

では私も一口・・・「・・・・」

これは凄い。日本酒と言うよりは、出来損ないのマッコリと言った感じ。「腐ったドブロクの上澄み」と表現する方もいらっしゃる様ですが、まさに・・・。

ところが不思議と後を引きます。一口目のインパクトの後、二杯目、三杯目と進むうちに慣れてきて、このお酒の「情報量」の多さに引き込まれて行きます。

実は私は大吟醸の様な「キレイ」なお酒よりも、アミノ酸タップリの「雑味」の有る日本酒が好きです。最近は「旨口」と表現する様ですが、アミノ酸の多いお酒は複雑な味わいがあります。口に含んでから飲み下すまでに様々な味わいがせめぎ合い、どんどん変化しながら喉を下って行きます。

その極致が「むすひ」では無いでしょうか。なんせ精米歩合100%ですから「雑味」の塊の様なお酒です。上品の対極に在る「野性味」に惹かれます。

そして・・・アジの南蛮漬けは良い選択でした。酸味と辛みが良く合います。マッコリにも似た味わいなので、焼き肉にも合いそうです。


■ 作っている所を見ると味わいもひとしお ■

現在の日本には美味しい物が溢れています。百貨店のリカーショップに行けば、日本中の名酒も簡単に手に入りますし、ネットで注文すれば「幻の日本酒」もタイミング次第で購入可能です。

その最たる例が「獺祭ブーム」でしょう。確かに獺祭は美味しいお酒ですが、日本にはそれに匹敵する日本酒は沢山あります。ネットで情報を集めれば、日本全国の美酒も堪能できまます。

だけど、それは何か寂しい・・・・。

「あのお酒は○○で○○で凄い」というネットの情報量は確かに凄いのですが、自分が実際に蔵元に行って、その土地を歩いて、作っている人達とお話する情報量とは雲泥の差が在ります。

確かに千葉は酒作りに向いた土地では有りません。全国区の有名な地酒も有りません。しかし、地元の小さな酒造が、その土地に根付いてひたむきに醸したお酒には独特の味わいが在ります。

もし皆さんの身近にもそんな酒造が或るならば、是非足を運んでみては如何でしょうか。バーチャルでは無い、リアルの楽しみが味わえるかも知れません。