~風に吹かれて~ by ポー(paw)

-人の中に 人の創り出した物の中に 動植物の中に 地球や宇宙の中に 魂の琴線にふれ 愛を感じながら 生き込みたい-

ザ マ

2006-06-03 16:24:29 | ・風に吹かれて
S氏が仕事を辞めたその日、会社を出て歩いていると前方から老人が歩いてきた。
ヨボヨボではあるが帽子をかぶり、三つ揃えのスーツを着て、ステッキを携え
ていた。
すれ違いざまにその老人に、このあたりにこういう方の家がないかと声をかけられた。

S氏は会社に戻り地図を借りて、場所を教えてあげた。
だが、あまりにヨボヨボのお爺さんだったので、連れて行ってあげることにした。

家は探し当てたが留守だった。老人は地方から来ているらしく、
帰るわけにもいかないので、近くの旅館に泊まり、明日もう一度、
訪ねることにした。聞くところによると、老人は、自分はもうそう長くは
生きられないので、とてもお世話になったその方にお礼を言いに訪ねに来た
のだという。

その後、いろいろお世話になったので、老人がS氏にご馳走しましょうと
いうことになり居酒屋で一杯やった。老人は2~3杯オチョコでお酒を飲んだ。

店を出て、旅館へ案内すると、あまりに高齢な為に独りでは泊められないと
断わられた。他の旅館へ行っても同じ理由で泊められないという。

S氏は仕方なく恐縮する老人を自宅へ連れて行くことにした。
S氏は最近同棲し始めていて、彼女もいたが、事情が事情なだけに
彼女にも了解を得た。

明け方、S氏が起きてみると、寝ているはずの老人がいない。すると、
浴室にズボンを脱いで座っている老人がいるではないか。どうしたのかと
尋ねると、お漏らしをしたら申し訳ないので一晩中そこに座っていたいう。
S氏は、思わず泣けてしまった。何と律儀なお爺さんなのだろうと。

もう大丈夫、いろいろとお世話になったと老人は早朝S氏の家を出て行った。

その後、S氏のところに、その老人の家族から感謝の手紙が来て、
まもなく亡くなったことを知った。

S氏は、その老人のザマを見て、その後の自分の生きザマに大きな影響を与え
られたのだった。

こだわりの音

2006-06-03 15:27:35 | ・風に吹かれて
pawよりもちょうど一回り上のロックバンドのヴォーカルと飲みに行った。
彼とは、とても気が合い、月に1~2度飲みに行く。
いつも音楽談義から人生哲学まで幅広い話で盛り上がる。

そのときに出たお話。

彼は、いろいろなライブハウスでライブを行っているが、当然、
それぞれのライブハウスで音が異なる。
箱(ライブハウスの中)の形状、天井、壁からの跳ね返り、
防音状態、PAのセッティング、マイク、スピーカーなど
音響を作用するパラメータは多数ある。

そんな中で、音にこだわって自分のイメージした声を作り上げていく
という。
このセットだとこの音域では自分のイメージした声が
オーディエンスに届かないと思えば、
歌い方を変えたり、果てはメロディーラインまで崩すという。

常にベース、ギター、ピアノの音を聴きながら、自分の声が
どうオーディエンスに届くかを瞬時に計算しながら歌っているという。

いまやPAまかせのバンドが多々あると聴くが、これほどまでに
音にこだわっている奴はそういないだろう。

プレイヤーは、自分の音を中心にプレイするが、ヴォーカルは
全体像を見ている。指揮者のような感性だ。

だからスタジオで彼らのバンドのマイク一本で録った楽曲も
非常にバランスの良い仕上がりになっている。

常にオーディエンス側にたって、お金を払って聴きに来ているのだから、
最高の音を聴かせたいという彼の思いは、オーディエンスの心を揺さぶり
波動となって確実に届いている。