人間(じんかん)五十年 下天(げてん)のうちをくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度(ひとたび)生(しょう)を享(う)け 滅せぬもののあるべきか
幸若舞「敦盛」の段より
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下天:天界の最下段の化楽天=化天。ここでの800歳は人間界の1日に相当している。らしい。人間が一日を生きている間に、天界の天人は800年を長々と豊かに生きている。
人間界の50年は夢幻のようなものである。この世に生を受けて死なないでいられるということはない。
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といいながら、わたしはもう78年間を生きて来た。そろそろ2夢幻に近くなっている。1夢幻=50年とすれば、だが。
つまり一昔前の日本人よりは、夢幻を四捨五入して約2倍強く濃くしたたかに受け止めていることになる。その分の実人生やいかに? 薬缶に立ち上がるほんわりほわりのホケ蒸気のようなものか。
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今日も寒い。まもなく午前9時。日が差し込んでこない。気温9・8℃。コタツの上の指先が冷たい。肩先がほっそりして寂しい。風はない。またまた下痢。世をはかなんで腹に溜まるものがない。