見る条件をぜんぶ完璧にそろえてもらっているので、わたしが、爽やかに澄んだ大空と緑なす5月の山々とを、眼前に置いて、見ることが出来る。条件は10000の10000乗個ほどもあるのだが、それをぜんぶわたしに満たしてもらったので、わたしが風景を見ている。見て、爽やかになっている。
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条件の、10000の10000乗個には、それぞれ、それをそうしようとした意思がある。(意思がある、というふうに、わたしは思っている)どの意思も、意思表明なんかしないのだが。
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満たされたずべての条件を引き受けて、わたしが青く美しい大空と緑なす山々を見ている。わたしも、見て遣ってるぞなんてことを、言わないで、穏やかな気分を作って見ている。
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「すべての条件成立」は、日々刻々に受け継がれて、それが止むときがない。見る条件の成立、聞く条件の成立、息を吸う条件の成立、生まれて来る条件の成立、死んで行く条件の成立が、目白押しに列んでいる。
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風が渡る。庭先の姫林檎の枝葉を静かに揺らしながら、風が渡る。どうだ、といわんばかりだ。風が枝葉を揺らして渡っていくことができる条件が満たされて、しかもしれがいといと自ずからにという具合にして、風がわたしの眼前を渡っていく。