知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明細書の要旨を変更するとした事例

2013-02-27 22:19:36 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10401
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

ウ 本件発明における「無線電話通信システム」が備える「交換システム」は,特許請求の範囲の記載において,システムを構成する内部機器等の具体的構成を限定するものではないが,一定の形状や構造を有する実体を有することが前提となっていることは明らかである。
 また,本件発明における「送信」及び「受信」という文言も,本件特許の特許請求の範囲の記載における「伝える」「送り」「受信する」「送り出し」「送信する」「受信される」という各文言と同様に,「外へ(送信)」及び「外から(受信)」という意義を当然に含んでいるということができる。出トラヒックに関する「セルによってサービスされる無線電話に向かって出て行く音声呼トラヒックを受け取り,これに応じて個々の呼の出トラヒックを運ぶパケットを統計的に多重化された形式で前記セルに接続された少なくとも1つのリンク上に送り出」すとの記載における「受け取り」及び「送り出し」についても,「外部からの受信」及び「外部への送信」を意味するものと解されるから,本件構成についても,同様に解するのが相当である。
 したがって,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項(発明特定事項)を記載すべき特許請求の範囲の記載において,送信及び受信の主体が一定の形状や構造を有する意義を持つ「交換システム」であると記載されている以上,「交換システム」による「送信」及び「受信」は,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われるというべきである。

エ 以上によると,本件構成における「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムで受信されるように入トラヒックを当該交換システムが送信する時刻を制御する手段」については,これを「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」を意味するものと解するのが相当である。
 そして,本件発明2は,本件発明1を引用し,第2の手段がさらに出トラヒック及び入トラヒックの「コピー」に係る所定の機能を担う第3の手段を備える構成に限定するものであるから,同様に,上記手段を有するものである。

・・・
したがって,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御する技術的事項を開示するにすぎない本件当初明細書には,交換システムの出口から送信する時刻を制御することは記載されておらず,また,当業者が,本件当初明細書の記載から,本件構成に係る技術内容が記載されているものと理解することはできないというべきである。

イ 以上によると,本件当初明細書の発明の詳細な説明に記載された時刻の制御は,「交換システム」の「出口」から「送信」する「時刻」を制御するものではないから,本件構成は,本件当初明細書の記載の範囲内のものということはできず,本件補正は,本件当初明細書の要旨を変更したものというほかない。

最新の画像もっと見る