知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明確性要件を満たさないとした事例

2013-02-10 20:11:07 | 特許法36条6項
事件番号 平成23(行ケ)10418
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

3 取消事由3(明確性要件についての判断の誤り)について
(1) 「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の測定方法について
ア 本件特許発明は,防眩フィルムを構成する「透明基材フィルム」,「透光性拡散剤」,「透光性樹脂」の構造等によって特定されるのではなく,主として,防眩フィルムの「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値範囲によって特定される発明である。したがって,特許請求の範囲の記載が明確であるためには,少なくとも,「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値の測定方法(求め方)が一義的に確定されることが必須である

イ 「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」における内部ヘイズ値hiの測定方法は,発明の詳細な説明の記載を参照し,かつ出願時における技術常識によっても,明らかとはいえない。その理由は,以下のとおりである。
・・・
 そうすると,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」の内部ヘイズ値を測定する方法は,発明の詳細な説明の記載,及び本件特許の出願当時の技術常識によって,明らかであるとはいえない。内部ヘイズ値が一義的に定まらない以上,総ヘイズ値から内部ヘイズ値を減じた値である表面ヘイズ値も一義的には定まることはない。内部ヘイズ値・表面ヘイズ値を一義的に定める方法が明確ではないから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足しないというべきである。

実施可能要件を満たさないとした事例

2013-02-10 20:08:33 | 特許法36条4項
事件番号 平成23(行ケ)10418
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について
上記明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1ないし8,12ないし16について,表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値を所定の範囲内のものとするために,どのようなP/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の組合せを選択すべきかについて,当業者が当該発明を実施することができる程度に記載されているとはいえない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 発明の詳細な説明の記載内容についての検討
 ・・・
 そうすると,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づいて,当業者は,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することができるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的な関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認識,理解することはできない

ウ 以上のとおり,発明の詳細な説明には,当業者において,これらの3つの要素をどのように設定すれば,所望の表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が得ることができるかについての開示はないというべきである(ただし,発明の詳細な説明中の実施例に係る本件発明9ないし11を除く。)。したがって,発明の詳細な説明には,当業者が,本件発明1ないし8,12ないし16を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。

特許請求の範囲の解釈事例

2013-02-10 19:31:02 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

(3) 原告の主張に対して
この点について,原告は,構成要件C,G及びH,並びに本願明細書の記載を斟酌すると,本件補正発明は,外部の共通電極バイアス発生装置からのバイアス電圧と,内蔵の共通電極バイアス発生装置からのバイアス電圧をそれぞれ接続パッドに供給できるように,「接続パッド」と内蔵の「共通電極バイアス発生装置」が「第2のボンディング・パッド」に接続されるとの構成αを備えており,構成αは引用発明との相違点であるところ,審決にはこの相違点を看過した誤りがあると主張する。
 しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。

 前記のとおり,構成要件C,Gは,いずれも「第2のボンディング・パッド」と「接続パッド」との接続方法に関して規定する。構成要件Cは,「作用的に接続された」との何ら具体的な内容を有しない文言により記載されているのに対し,構成要件Gは,構成要件Cを,より具体的,詳細に規定したものと解されるから,構成要件Cと構成要件Gのそれぞれが,別個独立の特徴を持った接続方法を特定していると解することはできない。すなわち,構成要件Cと構成要件Gとは,「第2のボンディング・パッド」と「接続パット」との接続方法について,別個独立の方法を規定したものではない。したがって,本願補正発明が,構成αを要件としていると解釈することはできない。
 また,構成要件Hも,導電性被覆を駆動させる方法に関して,「前記共通電極バイアス発生装置」が「前記導電性被覆に対する一定のバイアス電圧を生成し,該導電性被覆を駆動する」と記載されているのみであり,構成αを要件としていると解釈する余地はない。
 ・・・
 なお,本願明細書の段落【0025】には,「接続パッド34は,ボンディング・パッド18の1つと作用的に接続され,先行技術の共通電極発生装置が継続して使用可能となる。それによって,超小型表示装置30が,超小型表示装置10の差し替え式代替品となる。」との記載がある。しかし,本件補正発明の内容は特許請求の範囲の記載に基づいて判断されるべきであり,前記のとおり,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載から,本件補正発明が構成αを要件とすると解することはできない以上,上記記載から,本件補正発明が構成αを要件とする旨の示唆がされていると解することはできない。また,段落【0025】の記載も,外部の共通電極バイアス発生装置も内蔵の共通電極バイアス発生装置も共に使用できるということまで開示するものではない。

 また,本願明細書の段落【0008】には,接続クリップを使用することにより発生する課題が,段落【0010】には,接続パッドをシリコン・ダイ上に配置したことにより接続クリップが不要になる旨が記載されているが,前記のとおり,本件補正発明は,接続パッドをシリコン・ダイ上に配置するとともに,共通電極バイアス発生装置をシリコン・ダイ上やその中に形成することにより,上記課題を解決しているのであって,上記各段落の記載をもって,本件補正発明が構成αを要件とする旨の示唆があると解することもできない