知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の解釈事例

2013-02-10 19:31:02 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

(3) 原告の主張に対して
この点について,原告は,構成要件C,G及びH,並びに本願明細書の記載を斟酌すると,本件補正発明は,外部の共通電極バイアス発生装置からのバイアス電圧と,内蔵の共通電極バイアス発生装置からのバイアス電圧をそれぞれ接続パッドに供給できるように,「接続パッド」と内蔵の「共通電極バイアス発生装置」が「第2のボンディング・パッド」に接続されるとの構成αを備えており,構成αは引用発明との相違点であるところ,審決にはこの相違点を看過した誤りがあると主張する。
 しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。

 前記のとおり,構成要件C,Gは,いずれも「第2のボンディング・パッド」と「接続パッド」との接続方法に関して規定する。構成要件Cは,「作用的に接続された」との何ら具体的な内容を有しない文言により記載されているのに対し,構成要件Gは,構成要件Cを,より具体的,詳細に規定したものと解されるから,構成要件Cと構成要件Gのそれぞれが,別個独立の特徴を持った接続方法を特定していると解することはできない。すなわち,構成要件Cと構成要件Gとは,「第2のボンディング・パッド」と「接続パット」との接続方法について,別個独立の方法を規定したものではない。したがって,本願補正発明が,構成αを要件としていると解釈することはできない。
 また,構成要件Hも,導電性被覆を駆動させる方法に関して,「前記共通電極バイアス発生装置」が「前記導電性被覆に対する一定のバイアス電圧を生成し,該導電性被覆を駆動する」と記載されているのみであり,構成αを要件としていると解釈する余地はない。
 ・・・
 なお,本願明細書の段落【0025】には,「接続パッド34は,ボンディング・パッド18の1つと作用的に接続され,先行技術の共通電極発生装置が継続して使用可能となる。それによって,超小型表示装置30が,超小型表示装置10の差し替え式代替品となる。」との記載がある。しかし,本件補正発明の内容は特許請求の範囲の記載に基づいて判断されるべきであり,前記のとおり,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載から,本件補正発明が構成αを要件とすると解することはできない以上,上記記載から,本件補正発明が構成αを要件とする旨の示唆がされていると解することはできない。また,段落【0025】の記載も,外部の共通電極バイアス発生装置も内蔵の共通電極バイアス発生装置も共に使用できるということまで開示するものではない。

 また,本願明細書の段落【0008】には,接続クリップを使用することにより発生する課題が,段落【0010】には,接続パッドをシリコン・ダイ上に配置したことにより接続クリップが不要になる旨が記載されているが,前記のとおり,本件補正発明は,接続パッドをシリコン・ダイ上に配置するとともに,共通電極バイアス発生装置をシリコン・ダイ上やその中に形成することにより,上記課題を解決しているのであって,上記各段落の記載をもって,本件補正発明が構成αを要件とする旨の示唆があると解することもできない

商標法4条1項7号の趣旨

2013-02-09 20:16:11 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10267
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌

(2) 本件商標
 本件商標は,「シャンパンタワー」を横書きした商標であり,指定役務は,第43類「飲食物の提供,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,テーブル・テーブル用リネンの貸与,ガラス食器の貸与,タオルの貸与」である(甲1)。
・・・
2 本件商標の商標法4条1項7号該当性
(1) ・・・。
(2) 本件商標は,「シャンパンタワー」なる商標であるところ,・・・,本件商標からは,「シャンパンタワー」のみならず「シャンパン」という称呼及び観念も生ずるということができる。
(3) ・・・被告を始めとするシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者らの努力により,「シャンパン」表示の周知著名性が蓄積・維持され,それに伴って高い名声,信用,評判が形成されているものであり,「シャンパン」という表示は,シャンパーニュ地方のみならず,フランス及びフランス国民の文化的所産というべきものになっている。
 そして,前記1(4)に掲記の証拠によれば,「シャンパン」という表示は,我が国においても,ぶどう酒という商品分野に限られることなく一般消費者に対しても高い顧客吸引力が化体するに至っていることが認められる。
(4) 以上のような,本件商標の文字の構成,指定役務の内容並びに本件商標のうちの「シャンパン」の表示がフランスにおいて有する意義や重要性及び我が国における周知著名性等を総合考慮すると,本件商標を飲食物の提供等,発泡性ぶどう酒という飲食物に関連する本件指定役務に使用することは,フランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益を代表する被告のみならず,法律により「CHAMPAGNE」の名声,信用,評判を保護してきたフランス国民の国民感情を害し,我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり,国際信義に反するものといわざるを得ない。よって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するというべきである

3 原告の主張について
(1) 原告は,商標の構成に着目した公序良俗違反ではなく主体に着目した公序良俗違反の場合には,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについて,専ら商標法4条1項17号の該当性の有無によって判断されるべきであり,特段の事情がない限り,同項7号該当性の判断をする判断枠組みは誤りであるなどと主張する。

(2) なるほど,商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができないことを規定し,これは無効理由にも該当する(商標法46条1項1号)。同法4条1項7号は,本来,商標を構成する「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」(標章)それ自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形であるなど,公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である。
 そして,同条は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を個別具体的に定めていることに照らすと,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,他の条項(同項8号,10号,15号又は19号等)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら当該条項の該当性の有無によって判断されるべきであることは,原告が主張するとおりであって,公益的な事項が問題になっていない私的な領域に関する場合にまで安易に同条1項7号を適用するのは相当ではない。

 しかしながら,そもそも,本件で問題になっているのは,本件指定役務に係る商標であるから,ぶどう酒又は蒸留酒に係る同項17号が問題になることはない。そして,「シャンパン」表示が特定の私人に帰属するものでなく,フランスの原産地統制名称であること,それゆえ,本件商標のような原産地統制名称又は原産地表示として著名な「シャンパン」表示を含む商標に係る紛争は,私人間の私的領域における紛争にとどまるものではなく,被告によって代表されるフランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者を始めとするフランス国民やフランス政府との関係での国際信義の問題であって,公益的な事項に関わる問題であることに鑑みれば,本件について同項7号を適用することが,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈したものということはできない

技術分野と技術的課題の共通性

2013-02-09 09:37:30 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10174
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実

 審決は,・・・,相違点3,4は更に甲第3ないし第5,・・・に記載の発明ないし技術的事項を適用しても,当業者が容易に解消することができず,結局,本件発明は当業者において容易に発明することができるものではないと判断した。
・・・
 そして,甲第4,第5号証は,コンピュータで画像(ファイル)を作成するグラフィックソフトウェアに関する文献であるから,水中で光源から光を照射して集魚する発明である甲1発明とは技術分野が異なる上,光源を避けて魚群がドーナツ状に遠巻きに集まるため,漁獲効率が悪かったという従来の集魚灯の欠点を回避すべく,魚をより多く,より長時間集合させて,漁獲効率の向上を図るという甲第1号証の技術的課題(甲1の1頁右下欄~2頁右上欄)は,甲第4,第5号証には記載も示唆もなく,技術的課題に共通性がない
・・・
 なお,本件優先日当時,甲第4,第5号証に記載されているような,・・・機構を用意することが,集魚灯,水中灯を含む照明器具の技術分野のみならず,色の調整,選択を行う各種の技術分野においてごくありふれたものであったとまで認めるに足りる証拠はないから,甲第4,第5号証に代表されるような当業者の技術常識,慣用技術を適用すれば,本件優先日当時,当業者において相違点3の解消が容易であったともいうことができない

 結局,甲1発明に甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することにより,当業者が本件発明にいう「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」の構成に想到することは容易でなく,したがって相違点3の解消が当業者に容易であるとはいえない。

ソフトウェアのプログラムの著作物性

2013-02-03 16:43:47 | 著作権法
事件番号 平成24(ワ)5771
事件名 著作権侵害差止請求権不存在確認等請求事件
裁判年月日 平成24年12月18日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 高 橋 彩,上 田 真 史

1 争点1(本件ソフトウェアのプログラムの著作権侵害の成否)について
(1) 著作権法が保護の対象とする「著作物」は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)をいい,アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現など表現上の創作性がないものは,著作権法による保護は及ばない。また,著作権法上,「プログラム」とは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法2条1項10号の2)をいい,「プログラムの著作物」(同法10条1項9号)に対する著作権法による保護は,その著作物を作成するために用いる「プログラム言語」(プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系),「規約」(特定のプログラムにおけるプログラム言語の用法についての特組合せの方法)には及ばない(同条3項)

 そうすると,プログラムにおいて,コンピュータ(電子計算機)にどのような処理をさせ,どのような機能を持たせるかなどの工夫それ自体は,アイデアであって,著作権法による保護が及ぶことはなく,また,プログラムを著作権法上の著作物として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であるが,プログラムは,その性質上,プログラム言語,規約及び解法による表現の手段の制約を受け,かつ,コンピュータ(電子計算機)を効率的に機能させようとすると,指令の組合せの具体的記述における表現は事実上類似せざるを得ない面があることからすると,プログラムの作成者の個性を発揮し得る選択の幅には自ずと制約があるものといわざるを得ない。

 一方,複製とは,・・・(著作権法2条1項15号参照),著作物の再製は,・・・(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁参照)。

 以上の諸点に鑑みると,原告ソフトウェアのプログラムが本件ソフトウェアのプログラムの複製又は翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,まず,本件ソフトウェアのプログラムの具体的記述における表現上の創作性を有する部分と原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述とを対比し,原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述から本件ソフトウェアのプログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要があるというべきである。
・・・
 しかしながら,被告が主張する本件ソフトウェアのプログラムにおける表現上の工夫は,いずれも本件ソフトウェアの機能を述べるものにすぎず,それらは,プログラムの具体的記述における表現それ自体ではないアイデアであって,著作権法による保護が及ぶものではないから,その主張自体,本件ソフトウェアのプログラムの具体的記述における表現上の創作性を基礎付けるものではない。
 また,別紙1ないし12から明らかなとおり,被告が主張する本件ソフトウェアのプログラムのソースコードの記述における表現上の創作性を有する部分と原告ソフトウェアのプログラムのソースコードの具体的記述とは,一部分において共通する箇所があるものの,一致しているとはいえない。
 さらに,上記共通する箇所は,原告が主張するように,第三者(Baidu社)が提供しているオープンソースソフトウェアを利用した記述や,マイクロソフト社の「Visual Studio」が自動生成するソースコードを利用した記 述 , マ イ ク ロ ソ フ ト 社 が 公 開 し て い る 関 数 の 名 称 ( ・・・)の記述,コンピュータプログラムの文法上一般的に使用される表現を用いたもの(「While」文等)など,いずれもありふれた表現であって(甲8ないし20,22,弁論の全趣旨),作成者の個性が表れているものとはいえない