知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合

2013-02-11 18:48:17 | Weblog
事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治


 一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決民集第65巻9号3275頁)。

 上記の観点から検討するに,
① 我が国のPCT加入の効力発生日は昭和53年10月1日であるのに対し,北朝鮮のPCT加入の効力発生日は昭和55年7月8日であり,我が国について既に効力が生じている多数国間条約において,後に未承認国である北朝鮮が加入していること,
② PCTは,多数の国において特許出願を行うことの煩雑さ,非効率さや,特許庁が同一の発明について重複業務を行うことの非効率さを解決するために,国際出願制度を創設し,同盟国の間で特許出願,その出願に係る調査及び審査における協力を図ること,並びに同盟国において特別の技術的業務の提供を行うことを主な目的とした条約であり,パリ条約19条における「特別の取極」に該当し(乙8,13),したがって,PCTは,締約国における工業所有権の保護を図るものであり,これを超えて,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではないと解されること,
③ 我が国の政府は,北朝鮮を国家承認しておらず,我が国と北朝鮮との間には,国際法上の主体である国家の間の関係は存在しないとの見解を有していること(乙6の1,6の2及び弁論の全趣旨)が認められる。

未承認国の国籍を有する者のPCTに基づく国際出願の特許を受ける権利の承継

2013-02-11 17:34:58 | 特許法その他
事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治

1 事案の概要
 北朝鮮に居住する北朝鮮国籍を有するAらがPCTに基づいて行った本件国際出願について,Aらから本件発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,本件国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,本件手続却下処分を受けたため,原告は,原審において,被告に対し,同処分の取消しを求めて訴えを提起した。
 原審は,本件手続却下処分に取消事由はないと判断し,原告の請求をいずれも棄却した。
 参加人は,原告から本件発明に係る特許出願に関する権利と共に本件訴訟を追行する地位を譲り受けたと主張して,被告を相手方として本件訴訟手続に承継参加するとともに,控訴を提起した。当審における手続中に,原告は訴訟手続から脱退したため,原告,被告間の訴訟は終了し,原告,被告間の訴訟につき言い渡された原審の判決は当然に失効した。
 ・・・
第3 当裁判所の判断
 ・・・
(2) 特許を受ける権利の特定承継は,特許出願前においては,当事者間の合意のみでその効力が生じ,承継人による特許出願が第三者に対する対抗要件とされているのに対し,特許出願後においては,特許庁長官への届出を要する旨規定されている(特許法34条1項,4項)。
 本件において,本件発明に係る特許を受ける権利の承継について,特許庁長官への届出がされた事実はない(弁論の全趣旨)。しかし,本件は,
① 本件国際出願により,我が国においてその国際出願日に特許出願がされたとみなすことができるか否かが主要な争点であり,
② 特許庁長官の主張を前提とするならば,仮に,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る届出がされたとしても,本件書面と同様の理由によって,手続却下がされることが明らかな場合
である


 このような場合においては,承継に係る届出がされたとの事実がなくとも,本件発明に係る特許出願に関する権利及び本件訴訟を追行する地位を,原告から譲り受ける旨の合意をした参加人は,本件手続却下処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有すると解するのが相当である。

実施可能要件を満たさないとした事例

2013-02-11 16:43:00 | 特許法36条4項
事件番号 平成24(行ケ)10053
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明

 しかし,本願明細書の発明の詳細な説明には,移動無線機器が,伝送ネットワークの記憶手段に中間記憶されたプッシュサービスデータの量を知り,「当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないこと」を検知するための構成及び方法について何ら具体的な記載はない
 また,当該技術分野の技術常識を参酌しても,移動無線機器が,伝送ネットワークの記憶手段に中間記憶されたプッシュサービスデータの量を知り,「当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないこと」を検知するための構成及び方法が,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者に自明な事項であるとも認められない

 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明には,「伝送ネットワークに,当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示」することについて,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない