知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項11号該当性の判断事例

2011-05-05 17:14:29 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10332
事件名 審決取消
裁判年月日 平成23年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 商標法4条1項11号該当性の有無
 審決は,本願商標「天下米」と引用商標「天下」は類似し,また本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品の一部「籾米」も類似するから,本願は商標法4条1項11号に該当し商標登録を受けることができないと判断するところ,原告は上記類似該当性をいずれも争うので,以下検討する。
・・・
(2) 本願商標「天下米」と引用商標「天下」とは類似するか
・・・
(ウ) 以上によれば,本願商標と引用商標とは,外観は,その受ける印象が相当程度異なるものの,「天下」が共通であるから,一定程度の共通性が認められ,観念は,本願商標が「米」に関するものであるとしても,「この上なくすばらしい」「世に類がない」という意味を含む「天下」を共通にしているから,相当程度共通しており,称呼も「テンカマイ」と「テンカ」であって相当程度共通しているといえるから,前述した取引の実情を考慮すると,商標法4条1項11号にいう「類似する商標」であると認めるのが相当である。

(3) 本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品「籾米」とは類似するか
ア 指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,商標法4条1項11号にいう類似の商品にあたると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決民集15巻6号1730頁参照)。
 以上を前提として,本件における本願商標と引用商標の各指定商品の類否を検討する。

イ 本願商標の指定商品である「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と,引用商標の指定商品の「籾米」とが,商品として同じでないことは明らかであるが,・・・,その基本的な特徴部分はいずれも「米」であり,単にその状態が異なるにすぎない。
 そして,両指定商品に関して,一般的に,稲作農家が籾米を生産して販売し,米屋が精白米を販売するという細かな違いが存在するとしても,「米」は食用に供されるもので,その需要者は一般消費者であるなど,その基本的な性質は同じであることに加え,本願商標は,単に「天下米」と記載するのみであって,それ以上に,米の状態,すなわち「精白米」であって「籾米」でないことは記載していないのであるから,それぞれの指定商品に本願商標及び引用商標が付された場合,同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる。

 このように,本願商標をその指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」に使用した場合,引用商標をその指定商品中「籾米」に使用した場合とで誤認混同が生じるおそれがあるということができるから,本願商標と引用商標の各指定商品は類似するというべきである。

立体商標に商標法3条2項の適用を肯定した事例

2011-05-05 09:37:02 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10366
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 商標法3条2項の趣旨
 前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。
 そして,立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,
① 当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,
② 当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情
を総合考慮して判断すべき
である。

 なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持するため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照らすと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
ア 商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否
(ア) ・・・,女性の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような人間の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状は,他に見当たらない。
(イ) そして,本願商標に係る香水(・・・)が販売開始された平成5ないし6年以降,そのパッケージデザインないしボトルデザインについて,斬新,インパクト,刺激的,・・・といった評価が雑誌等に数多く採り上げられ,今日に至っている(・・・)。
・・・
イ 使用の実情
(ア) 原告は,フランスに本社を置く化粧品会社であり,資生堂のグループ会社である(甲2,3)。原告は,「JEAN PAUL GAULTIER」(ジャンポール・ゴルチエ)という香水のブランドを有している。
(イ) 原告は,平成5年,本願商標に係る立体的形状の容器に入れた香水・・・の販売を開始し,我が国においても,平成6年に販売を開始して,本件審決時まで販売を継続している(・・・)。我が国における・・・売上高は,平成16年以降,年間4500万円から5800万円程度である(甲135)。
(ウ) ・・・たびたび香水専門誌やファッション雑誌等に掲載され紹介されたり,広告されたりしている(・・・)。
(エ) 我が国で販売され,雑誌等に掲載されたジャンポール・ゴルチエ「クラシック」の形状は,本願商標とはごく僅かな形状の相違が存在するものもあるが,実質的にみてほぼ同一の形状である。
・・・
ウ 上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。

 以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。

立体商標の商標法3条1項3号に該当性の判断事例

2011-05-05 08:48:26 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10386
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項,5条2項),同法4条1項18号において,「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと,商品及び商品の包装の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。

イ 商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない
 このように,
 商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,
 商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。

 そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。
 また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない
 
 よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。

・・・
 そうすると,本願商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,香水の容器について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,香水の容器の形状として,需要者において,機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきである。

注)法3条2項該当性は否定

支払時期の規定がない場合の補償金請求権の消滅時効の起算点

2011-05-04 10:11:07 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)26849
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大鷹一郎

(1) 消滅時効の完成の有無
ア 原告の本件発明1に係る相当の対価の請求は,沖電線が本件特許権1の上記設定登録日から上記存続期間満了日までの間被告の許諾により本件発明1を実施したことに基づく実施料相当額をもって被告が本件発明1により受けるべき利益(特許法旧35条4項)であると主張するものであるから,被告各規程の定める実績補償に係る相当の対価を請求するものということができる。そして,実績補償に関しては,平成2年被告規程2が適用される。

 ところで,従業者等は,勤務規則等により,職務発明についての特許を受ける権利を使用者等に承継させたときは,相当の対価の支払を受ける権利を取得し(特許法旧35条3項),その対価の額については,特許法旧35条4項により勤務規則等による額が同項により算定される額に満たないときは算定される額に修正されるが,その対価の支払時期については,そのような規定はない
 そうすると,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきであるから,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となり(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決民集57巻4号477頁参照),また,勤務規則等にそのような条項がない場合には,勤務規則等により支払うべき対価が発生したときが相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である。

イ 被告は,平成2年被告規程2の12条1項は,実績補償の支払時期について,実績補償の請求権を特許権の権利満了までの5年ごとに分割し,それぞれの期間の経過をもって支払時期が到来することを定めたものであり,・・・,最終期間の終期の翌日である平成8年9月30日が本件発明1に係る相当対価請求権の消滅時効の起算日となるものであるが,上記起算日から既に10年の時効期間が経過しているから,原告が主張する本件発明1に係る相当対価請求権はすべて消滅時効が完成している旨主張する。
・・・
 以上の諸点と本件特許権1が平成7年9月10日に存続期間満了により消滅していることを総合考慮すると,本件発明1に係る実績補償請求権の5年ごとの区分の最終期間に対応する支払時期は,遅くとも,被告が主張する平成8年9月30日までに到来していたものと認めるのが相当である。
 そうすると,原告主張の本件発明1に係る相当対価請求権(実績補償請求権に係る部分)の消滅時効の起算点は,上記の平成8年9月30日と解されるから,上記相当対価請求権は,同日から10年を経た平成18年9月30日の経過により消滅時効が完成したものと認められる。

特許権の存続期間の延長登録出願で先行医薬品に先行処分がされている場合

2011-05-01 22:50:10 | 最高裁判決
事件番号 平成21(行ヒ)326
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月28日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 横田尤孝
裁判官 宮川光治、櫻井龍子、金築誠志、白木 勇

原審裁判所名 知的財産高等裁判所
原審事件番号 平成20(行ケ)10460
原審裁判年月日 平成21年05月29日


3 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。

 なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである

 そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。

関連事件

物の発明における発明の実施可能要件

2011-05-01 22:04:13 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10247
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・ 実施可能要件の意義
法36条4項は,「発明の詳細な説明は,…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない」と規定している(以下「実施可能要件」ということがある。)。
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして,本件のような物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。

・ 被告の主張について
 ア 被告は,当業者が,一般的なダイアモンド状炭素(DLC)膜の製造方法の域を出ていない本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本願発明1に係る「電界放出デバイス用炭素膜」を製造できることが保証されることにはならないと主張する。
 しかし,本願明細書に記載された複数の条件の全範囲で,本願発明が製造できる必要はなく,技術分野や課題を参酌して,当業者が当然行う条件調整を前提として,【0010】ないし【0012】に記載された範囲から具体的製造条件を設定すればよい

被告は,本件意見書に添付したランシートに記載された3つのサンプルについて,4つの製造条件(パラメータ)がカバーする範囲は,本願明細書の発明の詳細な説明(【0010】~【0012】)に記載された製造条件(パラメータ)の範囲の一部分でしかないと主張する。
 しかし,本来,物の発明において,適用可能な条件範囲全体にわたって,実施例が必要とされるわけではない。物の発明においては,物を製造する方法の発明において,特許請求の範囲に製造条件の範囲が示され,公知物質の製造方法として,方法の発明の効果を主張しているケースとは,実施例の網羅性に関して,要求される水準は異なるものと解される。

・・・

 以上のとおり,本願明細書【0010】ないし【0012】の条件範囲は,製造可能なパラメータ範囲を列挙したと捉えるべきで,当業者は具体的な製造条件決定に際しては,技術常識を加味して決定すべきものである

特許請求の範囲の用語の認定事例

2011-05-01 21:35:48 | 特許法70条
事件番号 平成22(行ケ)10239
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・したがって,本件補正発明にいう「論理インデックスの組」の意義は,一義的に明らかであるとはいい難い。

 そこで,本件補正明細書の記載を参酌すると,・・・に認定のとおり,本件補正明細書では,「論理インデックスの組」を集合として捉えていることが明らかであり(【0022】),また,処理エンジンは,論理インデックス「#107」,「#106」,「#104」及び「#100」のうちの「任意の組」が名称辞書の論理インデックス・セットの中にあるか検索することとされているところ(【0036】),これら4つの論理インデックスからの任意の選択に当たり,論理インデックス間の優先順位や特定の配列順序が適用されるとみるに足りる記載はないから,ここで「論理インデックスの組」とは,「#107」,「#106」,「#104」及び「#100」の4つの論理インデックスから任意の複数の論理インデックスを選択してこれを組み合わせたものと解することができる
 したがって,本件補正発明にいう「論理インデックスの組」は,原告らの主張するように,特定の順序を有しないで論理インデックスが組み合わされた場合を含むことは否定し得ない。

 しかしながら,本件補正明細書には,「論理インデックスの組」から複数の論理インデックスが特定の順序で配列された場合が除外されていると見るに足りる記載がない。むしろ,・・・に認定のとおり,本件補正明細書には,「GETRONICS FOODS CO.,LTD AKASAKA」に対応するものとして,「#107,#106,#104,#100」との特定の順序による「論理インデックスの組」が存在する旨の記載がある(【0031】)から,複数の論理インデックスを特定の順序で配列したからといって,当該配列により本件補正発明にいう「論理インデックスの組」ではなくなるというものではない
 したがって,本件補正発明の「論理インデックスの組」は,特定の順序を有しないで論理インデックスが組み合わされた場合のほかに,複数の論理インデックスが特定の順序で配列された場合をも包含するものと認めざるを得ない

詳細な製造条件等の開示を要しないとした事例

2011-05-01 20:54:31 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10249
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

3(1) この点,審決は
「訂正明細書の実施例3,4で採用されている119℃(実施例3),40℃,60℃(実施例4)といった実験条件は,セボフルラン含有麻酔薬の製造,保存等において通常使用されている温度ではなく,過酷な温度条件である。かかる温度条件は,セボフルランの分解抑制効果を確認するための実験を,3時間,あるいは144時間もしくは200時間といった通常のセボフルラン含有麻酔薬の保存期間に比べて短期間に行うために採用されたものと考えられる」
とする一方で,
「これらの温度,時間についての実験条件と,通常のセボフルラン含有麻酔薬の製造,保存等の環境下での条件との関係については,訂正明細書には何ら説明がない。また,原告は,訂正明細書の実験例において採用される条件が『最悪の場合のシナリオ』と主張するにとどまり,両者の具体的な関係は明らかにしていない。」
と説示
する。

 しかし,訂正明細書の実施例3,4で採用されている実験条件が通常想定される使用条件を超える過酷なもので,短時間で実験を終える加速試験の条件として設定されたものであるとすれば,上記実験条件下でも安定している薬剤は,上記実験条件未満の通常の使用条件の下でも安定しているものと考えるのが当業者の当然の理解であって,さらに詳細に製造条件等を開示するか否かは,明細書の作成者において発明の詳細な説明をどこまで具体的かつ詳細に記載し,当該発明の実施形態を詳細に開示するかによるものにすぎず,かかる詳細な製造条件等の開示が特許法36条4項1号の規定の適用上必須だとされるものではない

 そうすると,審決の上記説示は誤りである。