知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審尋への回答書の当否を示さず、補正案による補正の機会を与えないことは裁量権の逸脱か

2011-05-08 15:03:36 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10190
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 裁量権の逸脱,濫用について
 原告は,審判合議体が,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)の当否について審理せず,これに対する理由を示さなかった点において,審判合議体の有する裁量権を逸脱,濫用したものであり,違法であると主張する。
 しかし,原告の主張は失当である。特許法158条には,・・・。同規定によれば,拒絶査定不服審判は,審査における手続を有効なものとした上で,必要な範囲で更に手続を進めて,出願に係る発明について特許を受けることができるか否かを審理するものであり,審査との関係では,いわゆる続審の性質を有する。そして,審判手続の過程で請求人の提出した書面に記載された意見の当否について,審決において,個々的具体的に理由を示すことを義務づけた法規はない。したがって,審決において,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)について,その当否について,個々的具体的な理由を示さなかったとしても,当然には裁量権の濫用又は逸脱となるものではない。・・・。
・・・
(1) まず,請求人が審判長に提出した回答書(・・・)は,審判長が請求人宛てに送付した・・・「審尋」と題する書面(・・・)に応じて回答したものである。
・・・
 上記「審尋」と題する書面によれば,同書面は,
① 前置報告書の内容を示して,審判手続は,同報告書の内容を踏まえて実施する方針を伝え,
② 請求人に対して意見を求めた書面
である
と認められる。

 したがって,上記書面に沿って,請求人が,補正案の記載された回答書を提出したからといって,審判合議体において,請求人の提出した補正案の記載された回答書の内容を,当然に審理の対象として手続を進めなければならないものではなく,また,審決の理由中で,請求人の提出した回答書の当否を個別具体的に判断しなければならないものではない。審判手続及び審決に,上記の点に関する裁量権の濫用ないし逸脱はない。

(2) 次に,原告の提出した回答書に添付された「補正案」の手続上の意義について検討する。
 特許庁のウエブサイトには,「前置審尋を受け取った場合の審判請求人の対応」中の「(注3)補正案について」の項目において,
「・・・補正の機会が与えられるものではありません。・・・,審判合議体が補正案を考慮して審理を進めることは原則ありません。ただし,補正案が一見して特許可能であることが明白である場合には,迅速な審理に資するので,審判合議体の裁量により,補正案を考慮した審理を進めることもあります。」
と記載されている(甲12)。
 原告は,上記ウエブサイトの「ただし書き」の記載を根拠として,請求人の提出した回答書に添付された「補正案」に記載された発明が一見して特許可能であるにもかかわらず,補正の機会が与えられなかったのは,裁量権の逸脱又は濫用に当たるかのような主張をする

 ・・・,拒絶査定不服審判請求を審理判断する審判合議体は,①・・・,他方,②拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をする権能を有するが,後者の場合には,請求人に対して,新たな拒絶理由を通知して,意見書提出の機会を与えなければならない旨規定されている(特許法159条2項,3項,50条。なお,特許法50条,159条2項については,平成14年法律第24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の法をいうものである。)。
 したがって,同規定によれば,請求人が補正をすることができるのは,審判請求の日から所定の期間内の補正をする場合を除いては,審判合議体において,拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をしようとする場合に限られるのであって,上記ウエブサイトに記載されたような,「補正案が一見して特許可能であることが明白である」場合や「迅速な審理に資する」場合等が,これに該当するとはいえない

 そうすると,本件において,審判合議体が,請求人の提出した補正案を記載した回答書に基づいて補正の機会を与えなかったこと,及び審決の理由において,その点に関する判断を個別的具体的に示さなかったことが,審理及び判断における裁量権の逸脱,濫用に当たるということはできない。また,補正案に記載された発明が一見して特許可能でありさえすれば,補正の機会が当然に与えられるとの原告の主張は,その前提において採用することができないので,補正案に記載された発明が一見して特許可能であるか否かについて検討するまでもなく,原告の主張は採用できない。

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