知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

廃墟を作品写真として取り上げた先駆者の営業上の諸利益

2011-05-15 21:03:32 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平


3 法的保護に値する利益侵害について
 控訴人が原告各写真について主張する法的保護に値する利益として,まず廃墟を作品写真として取り上げた先駆者として,世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益が挙げられている

 しかし,原告各写真が,芸術作品の部類に属するものであることは明らかであるものの,その性質を超えて営業上の利益の対象となるような,例えば大量生産のために供される工業デザイン(インダスリアルデザイン)としての写真であると認めることはできない
 廃墟写真を作品として取り上げることは写真家としての構想であり,控訴人がその先駆者であるか否かは別としても,廃墟が既存の建築物である以上,撮影することが自由な廃墟を撮影する写真に対する法的保護は,著作権及び著作者人格権を超えて認めることは原則としてできないというべきである。

 そして,原判決60頁2行目以下の「3 法的保護に値する利益の侵害の不法行為の成否(争点5)について」に記載のとおり,「廃墟」の被写体としての性質,控訴人が主張する利益の内容,これを保護した場合の不都合等,本件事案に表れた諸事情を勘案することにより,本件においては,控訴人主張の不法行為は成立しないと判断されるものである。控訴人が当審において主張するところによっても,上記判断は動かない。

原審

廃墟写真の本質的な特徴

2011-05-15 20:39:12 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平
 
1 翻案権侵害を中心とする著作権侵害の有無について
(1) 著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる

 本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。

(2) 被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,・・・。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
 しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない
・・・

原審
 本件において,原告は,「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち,原告写真1ないし5の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨主張しているので,被告写真1ないし5の作成がこれに対応する原告写真1ないし5の翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,原告が主張する原告写真1ないし5における被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が上記のような表現上の本質的な特徴に当たるかどうか,被告写真1ないし5において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある
・・・
 そこで検討するに,原告が主張する原告写真1において旧丸山変電所の建物内部を被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく,また,その建物内部を,逆ホームベース状内壁の相当後方から,上記内壁に対して斜めに,上記内壁に接する内壁とほぼ平行の視点から撮影する撮影方向としたことのみから,原告が主張するような「旧丸山変電所の,打ち捨てられてまさに廃墟化した」印象や見る者に与える強いインパクトを感得することができるものではない。
 したがって,原告が主張する原告写真1における被写体及び構図ないし撮影方向そのものは,表現上の本質的な特徴ということはできない
・・・
 これらの相違点によって,原告写真1と被告写真1とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており,被告写真1から原告写真1の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

著作権法76条、75条の登録では著作物性を有することについて推定が及ばないとした事例

2011-05-15 19:36:38 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)35800
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告の商品台紙(・・・)の裏面に掲載した取扱文及び写真(・・・)並びに同商品のリーフレット(・・・)は,いずれも原告の著作物である「手続補正書」(・・・)を 複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行為は,原告の有する本件手続補正の著作権(複製権,翻案権)及び著者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円,合計300万円の損害賠償の支払を求める事案である。
・・・

第3 当裁判所の判断
・・・
(3) 著作権法75条3項の推定
 原告は,本件手続補正書は,本件願書と実質的に同一の著作物であるところ,本件願書は著作物として登録がされているから,著作権法75条3項により著作物と推定されると主張する。
 しかし,本件願書について登録がされているのは,著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって,同法75条の登録(実名の登録)ではない
 また,著作権法75条3項で推定されるのは当該登録に係る著作物の著作者であること,同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって,登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるのではない
 原告は,著作物として認められないのであれば却下理由になるはずであると主張するが,著作権に関する登録は,いわゆる形式審査により行われ,法令の規定に従った方式により申請されているかなど却下事由に該当しないかどうかを審査するものである(同法施行令23条参照)から,著作権に関する登録により著作物性を有することについて事実上の推定が及ぶと解することもできない