知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権の存続期間の延長登録出願で先行医薬品に先行処分がされている場合

2011-05-01 22:50:10 | 最高裁判決
事件番号 平成21(行ヒ)326
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月28日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 横田尤孝
裁判官 宮川光治、櫻井龍子、金築誠志、白木 勇

原審裁判所名 知的財産高等裁判所
原審事件番号 平成20(行ケ)10460
原審裁判年月日 平成21年05月29日


3 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。

 なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである

 そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。

関連事件

物の発明における発明の実施可能要件

2011-05-01 22:04:13 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10247
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・ 実施可能要件の意義
法36条4項は,「発明の詳細な説明は,…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない」と規定している(以下「実施可能要件」ということがある。)。
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして,本件のような物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。

・ 被告の主張について
 ア 被告は,当業者が,一般的なダイアモンド状炭素(DLC)膜の製造方法の域を出ていない本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本願発明1に係る「電界放出デバイス用炭素膜」を製造できることが保証されることにはならないと主張する。
 しかし,本願明細書に記載された複数の条件の全範囲で,本願発明が製造できる必要はなく,技術分野や課題を参酌して,当業者が当然行う条件調整を前提として,【0010】ないし【0012】に記載された範囲から具体的製造条件を設定すればよい

被告は,本件意見書に添付したランシートに記載された3つのサンプルについて,4つの製造条件(パラメータ)がカバーする範囲は,本願明細書の発明の詳細な説明(【0010】~【0012】)に記載された製造条件(パラメータ)の範囲の一部分でしかないと主張する。
 しかし,本来,物の発明において,適用可能な条件範囲全体にわたって,実施例が必要とされるわけではない。物の発明においては,物を製造する方法の発明において,特許請求の範囲に製造条件の範囲が示され,公知物質の製造方法として,方法の発明の効果を主張しているケースとは,実施例の網羅性に関して,要求される水準は異なるものと解される。

・・・

 以上のとおり,本願明細書【0010】ないし【0012】の条件範囲は,製造可能なパラメータ範囲を列挙したと捉えるべきで,当業者は具体的な製造条件決定に際しては,技術常識を加味して決定すべきものである

特許請求の範囲の用語の認定事例

2011-05-01 21:35:48 | 特許法70条
事件番号 平成22(行ケ)10239
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・したがって,本件補正発明にいう「論理インデックスの組」の意義は,一義的に明らかであるとはいい難い。

 そこで,本件補正明細書の記載を参酌すると,・・・に認定のとおり,本件補正明細書では,「論理インデックスの組」を集合として捉えていることが明らかであり(【0022】),また,処理エンジンは,論理インデックス「#107」,「#106」,「#104」及び「#100」のうちの「任意の組」が名称辞書の論理インデックス・セットの中にあるか検索することとされているところ(【0036】),これら4つの論理インデックスからの任意の選択に当たり,論理インデックス間の優先順位や特定の配列順序が適用されるとみるに足りる記載はないから,ここで「論理インデックスの組」とは,「#107」,「#106」,「#104」及び「#100」の4つの論理インデックスから任意の複数の論理インデックスを選択してこれを組み合わせたものと解することができる
 したがって,本件補正発明にいう「論理インデックスの組」は,原告らの主張するように,特定の順序を有しないで論理インデックスが組み合わされた場合を含むことは否定し得ない。

 しかしながら,本件補正明細書には,「論理インデックスの組」から複数の論理インデックスが特定の順序で配列された場合が除外されていると見るに足りる記載がない。むしろ,・・・に認定のとおり,本件補正明細書には,「GETRONICS FOODS CO.,LTD AKASAKA」に対応するものとして,「#107,#106,#104,#100」との特定の順序による「論理インデックスの組」が存在する旨の記載がある(【0031】)から,複数の論理インデックスを特定の順序で配列したからといって,当該配列により本件補正発明にいう「論理インデックスの組」ではなくなるというものではない
 したがって,本件補正発明の「論理インデックスの組」は,特定の順序を有しないで論理インデックスが組み合わされた場合のほかに,複数の論理インデックスが特定の順序で配列された場合をも包含するものと認めざるを得ない

詳細な製造条件等の開示を要しないとした事例

2011-05-01 20:54:31 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10249
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

3(1) この点,審決は
「訂正明細書の実施例3,4で採用されている119℃(実施例3),40℃,60℃(実施例4)といった実験条件は,セボフルラン含有麻酔薬の製造,保存等において通常使用されている温度ではなく,過酷な温度条件である。かかる温度条件は,セボフルランの分解抑制効果を確認するための実験を,3時間,あるいは144時間もしくは200時間といった通常のセボフルラン含有麻酔薬の保存期間に比べて短期間に行うために採用されたものと考えられる」
とする一方で,
「これらの温度,時間についての実験条件と,通常のセボフルラン含有麻酔薬の製造,保存等の環境下での条件との関係については,訂正明細書には何ら説明がない。また,原告は,訂正明細書の実験例において採用される条件が『最悪の場合のシナリオ』と主張するにとどまり,両者の具体的な関係は明らかにしていない。」
と説示
する。

 しかし,訂正明細書の実施例3,4で採用されている実験条件が通常想定される使用条件を超える過酷なもので,短時間で実験を終える加速試験の条件として設定されたものであるとすれば,上記実験条件下でも安定している薬剤は,上記実験条件未満の通常の使用条件の下でも安定しているものと考えるのが当業者の当然の理解であって,さらに詳細に製造条件等を開示するか否かは,明細書の作成者において発明の詳細な説明をどこまで具体的かつ詳細に記載し,当該発明の実施形態を詳細に開示するかによるものにすぎず,かかる詳細な製造条件等の開示が特許法36条4項1号の規定の適用上必須だとされるものではない

 そうすると,審決の上記説示は誤りである。