知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の明確性を否定した事例

2011-05-05 20:38:58 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10331
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 記載要件違反の有無の判断の誤り(取消事由4)について
(1) 記載要件違反の有無の判断の誤りについてまず判断する。
 本件発明1の特許請求の範囲においては,「肘掛け部」の「カバー部」につき,
「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている
と特定されている・・・。
 もっとも,図1,2,4,5,7で示される実施例の「肘掛け部25」の形状から,本件発明1の椅子型のマッサージ機に関する当業者の技術常識に照らして考察すれば,上記構成を備えることによって奏される作用効果は,審決が説示するとおり(12,14,15頁),「肘掛け部25」への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができるという点にあるということができる。

 ここで,上記構成のうち「第2部分における左右方向内側部分」については,図4からは「第2部分」のうち使用者(被施療者)から見て内側の部分であることは明らかであるものの,本件明細書及び図面のすべての記載に照らしても,内側のどの部分を指すのか判然としない

 ところで,上記の「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」という作用効果を奏することができるのは,・・・,「肘掛け部」(ないし「カバー部」)のうち被施療者の手の甲に連なる腕の部分(概ね上面)に対向する「第2部分」の長手方向(腕の長手方向)の長さ(寸法)が,左手であるならば被施療者の小指に連なる腕の部分(概ね側面)に対向する「第3部分」の長手方向の長さ(寸法)よりも有意に短くすることによるものであることが明らかであり,・・・。
 仮に,・・・,「肘掛け部」のうちの「第2部分」の手指側のみを先細りの形状とする場合には,「第2部分」の長手方向の長さが「第3部分」の長手方向の長さよりも短くなるものの,「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」との作用効果を奏することは困難であるし,また,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に僅かな差異しか設けない場合には,上記作用を奏することができないことは明らかである。

 上記構成は,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に差異を設けることしか特定しておらず,この差異を設ける「肘掛け部」の形状には種々のものが想定され得るのであって,その外延は当業者においても明確でないといわざるを得ない
 ・・・
 したがって,本件発明1の特許請求の範囲中,「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている」との構成は,明細書及び図面によっても明確でなく,当業者の技術常識を勘案しても明確でないというべきである。

組み合わせの際に施す必要な修正

2011-05-05 19:19:44 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10312
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平


第3 原告主張の審決取消事
・・・
(1)ア 審決は,相違点2に係る構成の容易想到性につき,次のとおり説示する(11,12頁)。
「・・・甲第3号証には,殻体の様々な箇所にエアーバッグを設けた点が記載されているが,甲第3号証に記載された殻体と甲1発明の椅子型マッサージ機とでは前提となる部分が大きく異なり,甲第3号証に記載された技術事項を甲1発明に適用する点に困難性がある。・・・」
・・・

第5 当裁判所の判断
・・・
 また,被告は,甲第3号証等のマッサージ器の具体的な構成と甲1発明の椅子型マッサージ機におけるマッサージ具の構成との違いを主張するが,前記のとおり判示した周知技術の内容の程度にかんがみれば,当業者において必要な修正を施して組み合わせることが容易な程度の違いにすぎない

同一文献に記載された複数構成の組み合わせ

2011-05-05 19:07:50 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10312
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(2) 審決は,甲第1号証の図1,7,8のマッサージ具41,42の構成に図11の突起体91,マッサージ具41,42の構成を追加して,両構成を兼ね備えた構成にする動機付けがない旨説示するが,上記の両構成は同一の文献に記載された実施例にすぎないのであり,両構成をともに採用したときに支障が生じることを窺わせる記載は甲第1号証中にもないし,当業者の技術常識に照らしても,そのような支障があるものとは認められないから,両構成を兼ね備えた構成にする動機付けに欠けるところはなく,審決の上記判断には誤りがある。

商標法4条1項11号該当性の判断事例

2011-05-05 17:14:29 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10332
事件名 審決取消
裁判年月日 平成23年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 商標法4条1項11号該当性の有無
 審決は,本願商標「天下米」と引用商標「天下」は類似し,また本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品の一部「籾米」も類似するから,本願は商標法4条1項11号に該当し商標登録を受けることができないと判断するところ,原告は上記類似該当性をいずれも争うので,以下検討する。
・・・
(2) 本願商標「天下米」と引用商標「天下」とは類似するか
・・・
(ウ) 以上によれば,本願商標と引用商標とは,外観は,その受ける印象が相当程度異なるものの,「天下」が共通であるから,一定程度の共通性が認められ,観念は,本願商標が「米」に関するものであるとしても,「この上なくすばらしい」「世に類がない」という意味を含む「天下」を共通にしているから,相当程度共通しており,称呼も「テンカマイ」と「テンカ」であって相当程度共通しているといえるから,前述した取引の実情を考慮すると,商標法4条1項11号にいう「類似する商標」であると認めるのが相当である。

(3) 本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品「籾米」とは類似するか
ア 指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,商標法4条1項11号にいう類似の商品にあたると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決民集15巻6号1730頁参照)。
 以上を前提として,本件における本願商標と引用商標の各指定商品の類否を検討する。

イ 本願商標の指定商品である「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と,引用商標の指定商品の「籾米」とが,商品として同じでないことは明らかであるが,・・・,その基本的な特徴部分はいずれも「米」であり,単にその状態が異なるにすぎない。
 そして,両指定商品に関して,一般的に,稲作農家が籾米を生産して販売し,米屋が精白米を販売するという細かな違いが存在するとしても,「米」は食用に供されるもので,その需要者は一般消費者であるなど,その基本的な性質は同じであることに加え,本願商標は,単に「天下米」と記載するのみであって,それ以上に,米の状態,すなわち「精白米」であって「籾米」でないことは記載していないのであるから,それぞれの指定商品に本願商標及び引用商標が付された場合,同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる。

 このように,本願商標をその指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」に使用した場合,引用商標をその指定商品中「籾米」に使用した場合とで誤認混同が生じるおそれがあるということができるから,本願商標と引用商標の各指定商品は類似するというべきである。

立体商標に商標法3条2項の適用を肯定した事例

2011-05-05 09:37:02 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10366
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 商標法3条2項の趣旨
 前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。
 そして,立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,
① 当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,
② 当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情
を総合考慮して判断すべき
である。

 なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持するため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照らすと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
ア 商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否
(ア) ・・・,女性の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような人間の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状は,他に見当たらない。
(イ) そして,本願商標に係る香水(・・・)が販売開始された平成5ないし6年以降,そのパッケージデザインないしボトルデザインについて,斬新,インパクト,刺激的,・・・といった評価が雑誌等に数多く採り上げられ,今日に至っている(・・・)。
・・・
イ 使用の実情
(ア) 原告は,フランスに本社を置く化粧品会社であり,資生堂のグループ会社である(甲2,3)。原告は,「JEAN PAUL GAULTIER」(ジャンポール・ゴルチエ)という香水のブランドを有している。
(イ) 原告は,平成5年,本願商標に係る立体的形状の容器に入れた香水・・・の販売を開始し,我が国においても,平成6年に販売を開始して,本件審決時まで販売を継続している(・・・)。我が国における・・・売上高は,平成16年以降,年間4500万円から5800万円程度である(甲135)。
(ウ) ・・・たびたび香水専門誌やファッション雑誌等に掲載され紹介されたり,広告されたりしている(・・・)。
(エ) 我が国で販売され,雑誌等に掲載されたジャンポール・ゴルチエ「クラシック」の形状は,本願商標とはごく僅かな形状の相違が存在するものもあるが,実質的にみてほぼ同一の形状である。
・・・
ウ 上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。

 以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。

立体商標の商標法3条1項3号に該当性の判断事例

2011-05-05 08:48:26 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10386
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項,5条2項),同法4条1項18号において,「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと,商品及び商品の包装の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。

イ 商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない
 このように,
 商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,
 商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。

 そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。
 また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない
 
 よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。

・・・
 そうすると,本願商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,香水の容器について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,香水の容器の形状として,需要者において,機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきである。

注)法3条2項該当性は否定