知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

本願発明に含まれる一部の実施例は記載されている場合

2008-09-21 15:56:30 | 特許法36条4項
事件番号 平成20(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

イ検討
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の記載(前記第2,2)及び段落【0032】の記載(前記ア(カ))によれば,本願発明1ないし4において,「複数のブロック単体を係合により結合させて構成され特定の意味を持つ対象物」は,発明の詳細な説明に実施例(前記ア(エ),(オ))として記載された「うさぎ」や「鳥」に限定されていない

(イ) 対象物を「うさぎ」とする実施例に関する記載(前記ア(エ))において,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形成されている」(段落【0019】)と説明されている。
 しかし, 「うさぎ」の各部分と「R 」, 「A 」, 「B 」, 「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係については,単に1つの例(・・・ ) が示されているにとどまり, ① 「うさぎ」の各部分と「R」,「A」,「B」,「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,②各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。

(ウ) 対象物を「鳥」とする実施例に関する記載(前記ア(オ))においても,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形成されている」(段落【0028】)と説明されている。
 しかし,「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体の対応関係については,単に1つの例(・・・)が示されているにとどまり,①「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,②各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。

(エ) 発明の詳細な説明の記載を検討しても,「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外の場合について,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない

(オ) 以上によれば,少なくとも「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外の場合には,発明の詳細な説明において,①「対象物の名称の綴りから構成されアルファベットからなる」各々の「ブロック単体」を「対象物」のどの部分に対応させるのか,②「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのように決定するのか,ということについて,何ら具体的な指針が示されていないから,当業者が本願発明1ないし4を実施しようとすれば,過度の試行錯誤が必要となるといわざるを得ない

そうすると,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできず,これと同旨の理由(1)アに係る審決の認定判断に誤りはない。

商標法4条1項8号の解釈-人格的利益を有するか否か

2008-09-21 15:55:36 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10142
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
1 取消事由について
(1) 商標法4条1項8号は,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を含む商標について,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとするものであるが,この規定の趣旨は,人が,自らの承諾なしに,その肖像,氏名,名称等を商標に使われることがない人格的利益を有していることを前提として,このような人格的利益を保護することにあるものと解するのが相当である(最高裁平成17年7月22日判決・集民217号595頁)。

 そして,かかる見地からすれば,肖像,氏名,名称のほか,これらと同様,特定人の同一性を認識させる機能を有する雅号,芸名,筆名について,また,氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称についても,同号による保護を及ぼす必要が生ずるが,氏名,名称が,ほとんどの場合に,出生届出や登記申請等の所定の手続を経て決定され,戸籍簿や登記簿等の公簿により確認することができるのに対し,雅号,芸名,筆名や上記各略称は,無方式で決定され,これを確認する定まった手段等もないのが通常であって,このような意味で恣意的ないし曖昧な部分を残し,当人の認識と周囲の認識との間に食い違いが生ずるような場合もあり得ることを考慮して,同号は,雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称については,同号による保護の要件として,著名であることを必要としたのに対し,氏名,名称については,著名であることを要しないものとしたと解することができる

 もっとも,同号の適用に当たり,他人の氏名,名称等を含む商標について,当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは,著名性を要する雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称に関して,著名性の有無を判断する際の1要素となり得ることは格別,同号の規定上,人格的利益の侵害のおそれそれ自体が,独立した要件とされているものではない

(2) しかるところ,上記第2の1の(1)のとおり,本件商標の構成中の漢字部分のうち,第1字目は「霊(靈)」の,第3字目は「会(會)」のそれぞれ異体文字と認められるから,同部分は実質的に「霊友会」と書されているのと同じというべきであり,この点は,原告も争っていない。
 そして,「霊友会」は,本件の登録異議申立人である霊友会の名称(フルネーム。甲第15号証の1,2)の表記そのものであるから,本件商標が,他人の名称を含むものであることは明らかであり,かつ,当該「他人」である霊友会の承諾を得ていないことは,原告も自認するところである。そうすると,本件商標は,商標法4条1項8号により商標登録を受けることができないものであるといわざるを得ない


(3) 原告は,商標の使用により他人の人格的利益を侵害するおそれがある場合に初めて,当該商標が商標法4条1項8号の「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を含む商標に該当するものと解すべきである旨主張する
 しかしながら,同号の立法趣旨が,氏名,名称等を,承諾なく商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあるものとしても,上記のとおり,同号の規定上,他人の氏名,名称等を含む商標が,当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは,同号適用の要件とされているものではない。すなわち,同号は,他人の肖像,氏名,名称を含む商標,並びに他人の著名な雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の著名な略称を含む商標については,そのこと自体によって,上記人格的利益の侵害のおそれを認め,商標登録を受けることができないとしているものと解されるのである
したがって,原告の上記主張は失当である。


(4) 仮に,他人の氏名を含む商標であっても,その使用が当該他人の人格的利益を侵害するおそれが全くない場合には,商標法4条1項8号の適用がなく,当該商標の登録を受けることができると解するとしても,本件においては,本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれが全くないとの事実を認めるに足りる証拠はない。

 この点につき,原告は,天理教事件最高裁判決を引用,・・・,本件商標の登録が霊友会の人格的利益を侵害するものということはできないと主張する。

 しかしながら,天理教事件最高裁判決の原告の引用する判示部分は,宗教法人が,その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,人格権に基づきその侵害行為の差止めを求め得ることを一般的に肯定した上,他方で,宗教法人は,その名称に係る人格的利益の1内容として,名称使用(教義を簡潔に示す語を冠した名称の使用を含む。)の自由を有するから,甲宗教法人の名称と同一又は類似の名称を乙宗教法人が使用している場合において,当該行為が甲宗教法人の上記権利を違法に侵害するものであるか否かは,乙宗教法人の名称使用の自由に配慮し,甲宗教法人の名称の周知性や乙宗教法人が当該名称を使用するに至った経緯等の諸事情を総合して判断すべきであるとし,当該事案に係る具体的事情の下では,乙宗教法人に相当する被上告人の名称使用が,甲宗教法人に相当する上告人の名称を冒用されない権利を違法に侵害するものではないと判断したものである。

 すなわち,天理教事件最高裁判決が,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)について判示したものであることはそのとおりであるとしても,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)を違法に侵害するか否かが問われているのは,他の宗教法人の名称の使用行為であり,当該他の宗教法人も,その人格的利益の1内容として,名称使用(教義を簡潔に示す語を冠した名称の使用を含む。)の自由を有するゆえに,当該名称使用行為が違法な侵害行為とされるか否かの判断に当たっては,その名称使用の自由に配慮し,上記諸事情を考慮すべきものとしているのである

 これに対し,本件において,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)を侵害するおそれがないといえるかどうかが問題となるのは,商標の登録ないしその使用行為であり,かかる行為は,商標を使用する者の業務上の信用(商標法1条参照)という,取引社会における経済的利益に係るものであって(現に,本件商標に係る指定商品及び指定役務の大部分は,宗教法人の本来的な宗教活動やこれと密接不可分な関係にある事業と直接の関係を有するものではない。),宗教法人の名称の使用がその人格的利益に基づくのと比べ,法的利益の性質を全く異にするものであるといわざるを得ない。

 そうすると,天理教事件最高裁判決が指摘したのと同様の諸事情により,本件における,本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれがないといえるか否かの判断をなし得るというものでないことは明らかであり,かかる意味で,天理教事件最高裁判決は,本件と事案を異にするものである。

次も同趣旨を判示。
事件番号 平成20(行ケ)10143
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟

拒絶査定の「備考」で言及しない請求項の拒絶審決の手続違背の有無

2008-09-21 15:54:57 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10340
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 取消事由1(意見書提出の機会が与えられなかった手続上の違反)について
 原告は,本件拒絶査定には,請求項1が容易想到であるとの判断のみ記載され,請求項31についての判断は記載されていなかったから,本件の審判手続において,請求項31に関する拒絶理由通知を発するべきであるにもかかわらず,そのような手続をしなかった点において,審判には,意見書及び補正書の提出の機会を与えなかった手続上の瑕疵があり,審決は違法であると主張する
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
・・・


(2) 判断
 上記認定した手続経緯に基づいて判断する。
 拒絶理由通知においては,その「理由1」において,「請求項1-5,9-15,17-20,24-33について」と明示しているのであるから,審査官が,出願時の請求項31に係る発明について,「理由1」に記載した拒絶理由が存在する旨を通知したことは明らかである

 原告は,請求項31に係る発明についても,同拒絶理由に対して,補正と意見書を提出しているのであるから,拒絶理由に,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかについて,不明確な点はない。

 次に,拒絶査定においては,「この出願については,平成16年4月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」と明示しているのであるから,審査官が,請求項31に係る発明についても,拒絶理由通知(「理由1」)と同一の拒絶理由が存在すると判断したことは明らかであり,拒絶査定には,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかについて不明確な点はない

 この点,拒絶査定では,「備考」として,原告が意見書に記載した点のうち,特に「引用文献1には,・・・請求項1記載の発明の特徴点が記載も示唆もされていない・・・」との主張に対して,上記の拒絶理由で指摘した引用文献1,引用文献2を根拠として,原告の述べた意見書の主張が失当である理由を具体的に記載することによって,原告の主張を排斥している
 しかし,拒絶理由において,このような判断内容が「備考」欄において記載されたからといって,その体裁,内容に照らして,拒絶査定の理由が,請求項1に対する拒絶理由に限定され,他の請求項に対する拒絶理由が解消されたと読まれる合理的な根拠はない
すなわち,拒絶査定の備考欄の記載は,「初期値から1組の疑似ランダムパターンを生成する」「動作の決定論的段階において,テスタから1組の圧縮された決定論的テストパターンを供給する」(判決注下線部は補正箇所)などとの事項を補正した請求項1についてもなおかつ拒絶理由通知に記載された「理由1」と同じ拒絶の理由が存在し,これにより拒絶されるべきものであるとの判断を示したものと理解するのが自然であるから,そのような判断が備考欄に追加付記されたことによって,その余の請求項についての拒絶理由が解消したと理解される余地はない。)。

 のみならず,原告は,審判手続において,請求項31を含む他の請求項13,17,33について,補正をし,各請求項について,進歩性について意見を述べているのであって,原告自身も,拒絶理由が請求項1に限られたものでないと理解していたことが推認される

 以上の経緯に照らすならば,審判手続において,意見書等提出の機会を与えなかったために,実質的に原告の利益保護を欠いたとする手続違背はない。

周知事項認定の根拠の記載

2008-09-21 15:54:07 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10340
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 取消事由2(相違点2の容易想到性判断の誤り)について
 原告は,審決には,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づいて周知事項を認定したか明示していない点において理由不備があり,また,・・・旨を主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。

・・・

(4) 周知技術の認定及び容易想到性の誤りについて
 以上のとおり,甲10ないし甲12には,いずれも「1組の決定論的テストパターンを生成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手段」を「回路」内に設ける技術が開示されている。
 原告は,審決には,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づいて,上記の周知事項を認定したかを明らかにしていない理由不備の違法があると主張する

 しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,審決は,
「『・・・』する手段を用いること,および,『・・・』を回路に設けることは,優先日前に頒布された刊行物である特開平11-174126号公報(特に,段落【0015】~【0017】および図1における,『アドレスカウンタ119』と『補助パターン記憶メモリ116』とからなる構成,および「セレクタ108」についてそれぞれ参照)(判決注甲10),・・・, pages 1188-1200(判決注甲11),および・・・, PAGE(S) 426-433(判決注甲12) に示されているとおり周知のことであり,」
と記載して,周知事項の根拠を説示している(審決書11頁5行目以下)。

 そして,甲11及び甲12については,論文集の一部を特定,抜粋することにより,説示したものであるが,前記(3),(4)で検討したとおり,特定抜粋部分は,図面を含み,全体の論旨を明確に示したものであること,特定抜粋部分の分量も,それぞれ13頁,8頁であって,出願人に大して過大な検討を強いるものではないこと,甲10の具体的な説示部分と相まって,審決の指摘した趣旨が十分に把握できるものであること等に照らすならば,審決における周知事項の説示が不明確であるとの原告の主張は理由がない