事件番号 平成20(行ケ)10045
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹
2 取消事由2(手続的瑕疵)について
(1) 原告は,本件特許出願の審査をした審査官は,本願発明の原料ガスであるフロンガスと,刊行物1の原料ガスであるCF4とが相違すると認めていたとした上で,審決が,原告の主張に対し,
「出願人(判決注・原告)は塩素を含まない単なるフッ化炭素と,塩・フッ化炭素とで化学プロセスが異なる旨主張するが,フロンには,これら両者が含まれるので,この主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用できない。」
と説示したことを捉え,審判官は,拒絶査定の理由とは異なる特許法36条6項1号の拒絶の理由を発見したということになるから,審判において拒絶理由を通知すべきであったにもかかわらず,審判段階で拒絶理由通知はなされていないから,審決は同法159条2項,50条に違背すると主張する。
しかしながら,同法50条の「審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。」との規定,及び同法159条2項の「第五十条・・・の規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。」との規定によれば,拒絶査定不服審判において,拒絶査定による拒絶の理由とは異なる拒絶の理由により,拒絶査定を維持し,審判請求を不成立とする審決をする場合には,審判請求人に対し改めて拒絶理由通知をする必要があるものの,仮に,審判合議体が,拒絶査定による拒絶の理由のほかに,これと異なる拒絶の理由を発見したとしても,その異なる拒絶の理由を,審決における拒絶の理由とするのでなければ,審判請求人に対し,その異なる拒絶の理由を改めて通知する必要がないことは明らかである。
・・・したがって,審決における拒絶の理由は,拒絶査定による拒絶の理由に含まれるものであって,これと異なる拒絶の理由ということはできない。
(2) もっとも,上記拒絶査定には,「備考」として以下の記載がある。「・・・。」
この記載は,刊行物1発明のCF4(フルオロカーボン)を,「フロンCFC-113」に転用(置換)することの容易性について言及するものと認められ,この記載のみからすれば,原告主張のとおり,拒絶査定においては,フルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであると認識していたと考えられないでもない。
しかるところ,拒絶理由通知の制度趣旨は,審査官又は審判官が出願を拒絶すべき理由を発見したときに,出願人に対してその旨を通知することにより,出願人に意見を述べる機会及び手続補正をする機会を与えて,特許出願制度の適正妥当な運用を図ることにあるから,拒絶査定において,フルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであるとされていたと仮定して,そのことにより,フルオロカーボンもクロロフルオロカーボンと同様「フロン」に含まれるものであることを前提とする審決の判断が,原告にとって全く予期し得ぬ不意打ちに当たり,その旨を通知するのでなければ,原告の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるものとすれば,上記(1)のとおり,審決の拒絶の理由が,拒絶査定における拒絶の理由に含まれるものであるとはいえ,改めて拒絶理由の通知をすることが必要であったと解する余地もある。
しかしながら,上記拒絶理由通知書(甲第7号証)には,「・・・。」との記載があり,この記載によれば,審査官(・・・)は,フルオロカーボンガスを,CFC-113,CFC-12(クロロフルオロカーボンガス)と「同じフロン類であるフロンガス」と認識していたことが認められるから,そもそもフルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであると認識していたということ自体が疑わしくなる。
また,その点は措くとしても,本件特許出願当時,単に「フロン」といった場合,通常,フルオロカーボンを含む意味で用いられていると解するのが当業者の技術常識であったものと認められることは,上記1(2)イのとおりであり,・・・。
上記意見書(甲第8号証)の記載によれば,原告が,本願発明の「フロン」を「分子中にフッ素の他,塩素を含」むもの,すなわち,クロロフルオロカーボンとしていることが認められるが,そうであるならば,上記のとおり,本件特許出願当時,単に「フロン」といった場合,通常,フルオロカーボンを含む意味で用いられており,上記拒絶理由通知書にもその旨の記載がある以上,原告としては,意見書の提出と併せて,本願明細書の「フロン」との記載を,原告自身の意図するところに合わせて改めるべく,手続補正をすべきであったのであり,そのようにすることに格別の障害があったと認めることはできない。
そうすると,フルオロカーボンもクロロフルオロカーボンと同様「フロン」に含まれるものであることを前提とする審決の判断が,原告にとって全く予期し得ぬ不意打ちに当たり,その旨を通知するのでなければ,原告の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるものとは到底いうことができず,この点からも,審判合議体が,改めて拒絶理由の通知をすることが必要であったということはできない。
(3) 以上によれば,審決に,拒絶理由通知の懈怠の手続的瑕疵があった旨の原告の主張を採用することはできないから,取消事由2は理由がない。
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹
2 取消事由2(手続的瑕疵)について
(1) 原告は,本件特許出願の審査をした審査官は,本願発明の原料ガスであるフロンガスと,刊行物1の原料ガスであるCF4とが相違すると認めていたとした上で,審決が,原告の主張に対し,
「出願人(判決注・原告)は塩素を含まない単なるフッ化炭素と,塩・フッ化炭素とで化学プロセスが異なる旨主張するが,フロンには,これら両者が含まれるので,この主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用できない。」
と説示したことを捉え,審判官は,拒絶査定の理由とは異なる特許法36条6項1号の拒絶の理由を発見したということになるから,審判において拒絶理由を通知すべきであったにもかかわらず,審判段階で拒絶理由通知はなされていないから,審決は同法159条2項,50条に違背すると主張する。
しかしながら,同法50条の「審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。」との規定,及び同法159条2項の「第五十条・・・の規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。」との規定によれば,拒絶査定不服審判において,拒絶査定による拒絶の理由とは異なる拒絶の理由により,拒絶査定を維持し,審判請求を不成立とする審決をする場合には,審判請求人に対し改めて拒絶理由通知をする必要があるものの,仮に,審判合議体が,拒絶査定による拒絶の理由のほかに,これと異なる拒絶の理由を発見したとしても,その異なる拒絶の理由を,審決における拒絶の理由とするのでなければ,審判請求人に対し,その異なる拒絶の理由を改めて通知する必要がないことは明らかである。
・・・したがって,審決における拒絶の理由は,拒絶査定による拒絶の理由に含まれるものであって,これと異なる拒絶の理由ということはできない。
(2) もっとも,上記拒絶査定には,「備考」として以下の記載がある。「・・・。」
この記載は,刊行物1発明のCF4(フルオロカーボン)を,「フロンCFC-113」に転用(置換)することの容易性について言及するものと認められ,この記載のみからすれば,原告主張のとおり,拒絶査定においては,フルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであると認識していたと考えられないでもない。
しかるところ,拒絶理由通知の制度趣旨は,審査官又は審判官が出願を拒絶すべき理由を発見したときに,出願人に対してその旨を通知することにより,出願人に意見を述べる機会及び手続補正をする機会を与えて,特許出願制度の適正妥当な運用を図ることにあるから,拒絶査定において,フルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであるとされていたと仮定して,そのことにより,フルオロカーボンもクロロフルオロカーボンと同様「フロン」に含まれるものであることを前提とする審決の判断が,原告にとって全く予期し得ぬ不意打ちに当たり,その旨を通知するのでなければ,原告の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるものとすれば,上記(1)のとおり,審決の拒絶の理由が,拒絶査定における拒絶の理由に含まれるものであるとはいえ,改めて拒絶理由の通知をすることが必要であったと解する余地もある。
しかしながら,上記拒絶理由通知書(甲第7号証)には,「・・・。」との記載があり,この記載によれば,審査官(・・・)は,フルオロカーボンガスを,CFC-113,CFC-12(クロロフルオロカーボンガス)と「同じフロン類であるフロンガス」と認識していたことが認められるから,そもそもフルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであると認識していたということ自体が疑わしくなる。
また,その点は措くとしても,本件特許出願当時,単に「フロン」といった場合,通常,フルオロカーボンを含む意味で用いられていると解するのが当業者の技術常識であったものと認められることは,上記1(2)イのとおりであり,・・・。
上記意見書(甲第8号証)の記載によれば,原告が,本願発明の「フロン」を「分子中にフッ素の他,塩素を含」むもの,すなわち,クロロフルオロカーボンとしていることが認められるが,そうであるならば,上記のとおり,本件特許出願当時,単に「フロン」といった場合,通常,フルオロカーボンを含む意味で用いられており,上記拒絶理由通知書にもその旨の記載がある以上,原告としては,意見書の提出と併せて,本願明細書の「フロン」との記載を,原告自身の意図するところに合わせて改めるべく,手続補正をすべきであったのであり,そのようにすることに格別の障害があったと認めることはできない。
そうすると,フルオロカーボンもクロロフルオロカーボンと同様「フロン」に含まれるものであることを前提とする審決の判断が,原告にとって全く予期し得ぬ不意打ちに当たり,その旨を通知するのでなければ,原告の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるものとは到底いうことができず,この点からも,審判合議体が,改めて拒絶理由の通知をすることが必要であったということはできない。
(3) 以上によれば,審決に,拒絶理由通知の懈怠の手続的瑕疵があった旨の原告の主張を採用することはできないから,取消事由2は理由がない。