知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

サポート要件の判断事例

2008-09-13 10:41:06 | 特許法36条6項
事件番号 平成19(行ケ)10307
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
 事案にかんがみ,取消事由2から判断する。
1 取消事由2(サポート要件の具備についての判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件について
ア(ア) 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号が規定するいわゆるサポート要件に適合するものであるか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,発明の詳細な説明の記載が,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否か,又は,その程度の記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識に照らし,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。

(イ) また,発明の詳細な説明の記載が,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでなく,かつ,特許出願時の技術常識に照らしても,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでない場合に,特許出願後に実験データ等を提出し,発明の詳細な説明の記載内容を記載外において補足することによって,その内容を補充ないし拡張し,これにより,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するようにすることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度に趣旨に反し許されないと解すべきである。

イ ところで,本件発明1は,前記第2の2のとおり,本件組成を有する無鉛はんだ合金であって,「金属間化合物の発生を抑制し」との構成(以下「本件構成A」という。)及び「流動性が向上した」との構成(以下「本件構成B」という。)を含むものであるところ,一般に,合金に係る発明を,その組成に加え,その機能ないし性質を用いて特定する場合,当該発明は,その機能ないし性質を必要とする用途に用いられる合金であり,当該組成を有する当該合金が当該機能ないし性質を備えることにより,当該発明の課題が解決されるものと理解されるのであるから,上記ア(ア)において説示したところに照らせば,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであるか否かについて判断するに当たっては,本件「発明の詳細な説明」が,当業者において,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより,本件構成A及びBの機能ないし性質が得られるものと認識することができる程度に記載されたものであるか,又は,本件出願時の技術常識を参酌すれば,当業者において,そのように認識することができる程度に記載されたものであることを要すると解するのが相当である。

ウ 以上の観点から,以下,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであるか否かについて検討する。

(2) 本件「発明の詳細な説明」の記載
ア 本件「発明の詳細な説明」には,次の各記載がある。

(3) 検討
ア(ア) 上記(2)のとおり,本件「発明の詳細な説明」には,本件構成A及びBに関する記載として,・・・との各記載,すなわち,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより本件構成A及びBの機能ないし性質が得られたとの結果の記載並びにその理由として「CuとNiは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあるため,NiはSn-Cu金属間化合物の発生を抑制する作用をする」との趣旨の記載があるにすぎず,本件構成A及びBの機能ないし性質が達成されたことを裏付ける具体例の開示はおろか,当該機能ないし性質が達成されたか否かを確認するための具体的な方法(測定方法)についての開示すらない

・・・
イ上記アにおいて検討したところによれば,本件「発明の詳細な説明」が,当業者において,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより,本件構成A及びBの機能ないし性質が得られるものと認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであり,かつ,本件出願(優先日)当時の技術常識を参酌しても,当業者において,そのように認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであるといわざるを得ない。
 したがって,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認めることはできない。