知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

設計的事項の判断事例

2008-09-09 07:01:58 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(ネ)10019
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 そして,前記のとおり,本件A特許権の優先日当時,建築用コンクリートの湿式吹付け施工方法に関し,先端に直管形状の吹付けノズルを接続したノズル配管中を圧縮空気と急結剤注入後の混漿状のコンクリートが通過する技術は周知であり(乙73ないし78,弁論の全趣旨),湿式吹付け施工方法において湿式吹付け材が圧送される配管の途中に急結剤を圧縮空気を注入して,圧縮空気と急結剤を注入後の湿式吹付け材を,ノズルにつながる配管(ノズル配管)中を通過させて,急結剤を配管において湿式吹付け材中に良好に分散させることも,慣用されている技術にすぎないことが認められる(乙31,32,74,77,弁論の全趣旨)。
 なお,吹付け材へ急結剤を添加する技術的意義は,上記のとおり,吹付け材の流動性を急速に低下させ,施工箇所において,付着性を向上させ吹付け材が流れ落ちること(ダレ)を防止したりすることにあるから,コンクリートやモルタルや不定形耐火物など吹付け材が異なることによって,上記技術的意義に相違が生ずることはない。

 そうすると,坏土に急結剤を良好に分散させる必要があることが自明な乙40発明において,急結剤及び圧縮空気を注入するに当たり,湿式吹付け材中に急結剤を良好に分散させるために,圧縮空気と急結剤を注入後の坏土を「ノズル配管中を通過させ」るようにすることは,当業者が必要に応じ適宜なし得る程度の設計事項であると認められる。

・・・

 前記(ア)のとおり,乙40発明に乙7発明Aを組み合わせて,上記相違点1及び3に係る訂正A発明の構成に想到することは,当業者には容易であったところ,乙40発明に乙7発明Aを組み合わせるに当たり,坏土に加える水の量を,不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8~10重量部程度とし,相違点2に係る訂正A発明の構成とすることも,容易であったというべきである。

 ところで,訂正A発明は,混練時に添加する水の割合を不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8~10重量部と規定しているが,訂正A明細書(甲43)によれば,同明細書の発明の詳細な説明の欄における,不定形耐火物用粉体組成物に加えるべき水の量の上記の数値の説明については,「・・・。」(【0024】),「・・・。」(【0025】)と記載されるのみであり,同明細書には,上記数値の技術的意義や,上記数値の裏付けとなる実験についての記載がないことが認められる。かえって,訂正A明細書の【0015】には,「特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5~7%)で施工されるので不定形耐火物で発生する粉塵量を低下させうる。」との記載があることが認められ,訂正A明細書は,5ないし7%の水分量が好ましいとしている。

 したがって,訂正A発明の相違点2に係る構成に特段の技術的意義があるとは認められず,この点からも,同構成は,当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項というべきである。

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