知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権が後に無効となった場合に先立つ侵害の警告は、虚偽の事実の告知,流布に当たるか

2007-05-21 05:45:30 | Weblog
事件番号 平成17(ネ)10119
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成19年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『3 争点5(原審原告が,原審被告らによる被告製品の製造販売が本件特許権の侵害である旨の虚偽の事実を告知,流布するという,不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争行為をしたか。また,これについて,原審原告に故意又は過失があるか。)について

(1) 上記第2の1の(1)の事実によれば,原審原告にとって,原審被告らは「競争関係にある他人」に当たるものと認められる。
 また,同(7)の事実に,乙第26,第28,第49,第50号証,第53号証の1,2及び弁論の全趣旨を総合すれば,原審原告は,本件特許権の登録後である平成16年10月以降,原審被告らの被告製品販売先である日本生活協同組合連合会,コープ九州事業連合,コープきんき事業連合及び千趣会に対し,直接書面により,又は他者を介して,被告製品が本件特許権を侵害するものである旨の告知をしたことが認められるところ,上記1のとおり,本件発明に係る特許は,無効審判において無効とされるべきものであって,被告製品が本件特許権を侵害するということはできない。

(2) しかしながら,原審原告による上記行為が,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められるのは,本件発明に係る特許が,無効審判において無効とされるべきものであるという点にある。そして,特許権者において,特定の者の製造する物品が当該特許権の侵害品である旨を第三者に対し警告する場合には,その製造者に対し警告する場合と比べ,より一層の慎重さが要求されるとしても,上記1の本件特許に係る無効事由の内容に照らし,また,上記2のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属すると認められることにかんがみると,本件においては,特許権者である原審原告が具体的な無効事由につき出願時又はそれ以降にその存在を疑って調査検討をすることを期待することができるような事情は認め難いから,原審原告による上記行為につき,故意過失があったとまでは直ちに認めることはできない
 なお,上記第2の2の(7)の事実に上掲証拠を総合すれば,原審原告は,上記行為において,日本生活協同組合連合会,コープきんき事業連合などに対し送付した書面に,本件特許に係る特許証と,本件特許出願に係る公開公報(特開平11-300130号)を添付したことが認められ,この事実によれば,送付を受けた日本生活協同組合連合会等は,原審原告が,上記公開公報記載の発明について特許権を取得したかのように誤認するおそれがあるものと推認されるが,そうであるからといって,本件発明に係る特許が,無効審判において無効とされるべきものであるという事由により,被告製品が本件特許権の侵害品に当たらないという点に関する原審原告の故意過失を基礎付けるということはできない。

(3) したがって,原審原告に対し,謝罪広告及び損害賠償を求める原審被告らの請求は理由がない。』