知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用例の図面の認定、無効審判時に提出されなかった周知例の扱い

2007-05-25 07:32:35 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10342
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

甲1は,特許公告公報であり,甲1図面は,当該公告に係る特許出願の願書に添付された図面であるところ,一般に,特許出願や実用新案登録出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許(実用新案登録)を受けようとする発明(考案)に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるものであって,設計図と異なり,当該図面に表示された寸法や角度,曲率などは,必ずしも正確でなくても足り,もとより,当該部分の寸法や角度,曲率などがこれによって特定されるものではないというべきである
 そうすると,仮に,原告主張のとおり,甲1図面に描かれたゴルフクラブの上記凹部に係る表示上の曲率が,当該表示上のゴルフクラブに対応するゴルフボールの外径曲率として想定される範囲の曲率より大きいとしても,そのことのみから,甲1考案の上記凹部の曲率が,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率であると即断し得るものではない特許実。(用新案)公報等の記載から,そのようにいうことができるとするためには,本件考案がそうであるように,明細書(特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲を含む)に,当該凹部の曲率がゴルフボールの外径曲率よりも大曲率である旨が記載されているか,又は,少なくとも,明細書に記載された発明(考案)の課題,目的又は作用効果(例えば「フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを防止すること)等から,そのような構成を採用していると理解」されるものであることを要するというべきである。』

『(3) 被告は,上記甲号各証につき,審判において証拠として提出されたものではなく,そのような証拠を,審決取消訴訟において新たに提出して,審決取消しの理由とすることは許されないと主張するところ,審判において,上記甲号各証が提出された形跡がないことは主張のとおりである。
 しかしながら,しかしながら,原告が「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知であるとの主張をし,この主張につき審決の判断を経ていることは上記のとおりであり,本訴において,上記甲号各証は,当該周知技術の存在を裏付ける補強資料として提出されたにすぎないものであるから,これを本訴における証拠資料の一部とすることが許されないものではない。

(4) また,被告は,乙2~5によれば,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホーゼル部のフェース部側との間に関する構成には,各種の形状のものが知られているから,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成することが周知技術であるとの主張は,根拠がないと主張する
 ・・・
 そうすると,凹部の有無が定かではない乙2記載のものを除き,上記乙3~5によると確かに被告主張のとおりゴルフクラブアイアンのフェース部とホーゼル部の間に関する構成には各種の形状のものが知られているということができその中には,乙3,乙4記載のもののように「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」こととは相容れない構成のものも存在する。
 しかしながら,一般に,ある技術が周知技術といえるために,これと相容れない技術が存在しないことを要するものではなく,乙3~乙5に上記のような技術が記載されているからといって,上記のとおり,多数の周知事例に基づいて認定することができる周知技術の周知性が否定されるものではない。』

上記周知技術は,ゴルフクラブ(アイアン)において,一般に見られるものであり,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにつき,阻害事由も見当たらないから,甲1考案に上記周知技術を採用することは,当業者であれば,格別の動機付けがなくとも適宜試みる程度のものというべきである
 したがってフェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題の認識いかんに関わらず,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。』