知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用発明と本願発明の製品としての違い

2007-05-27 09:33:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10443
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『原告は,審決が,本願補正発明は片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引用発明は両足用のおしめ替え補助具であることを顧慮することなく,一致点の認定に及んだ誤りがあると主張する
・・・
そして,本願補正発明及び引用発明が,両足用のおしめ替え補助具であるにせよ,一対のうちの一方を取ってみれば,いずれも仰向けに寝た人間のおしめを交換するために持ち上げた片足を保持するためのものであって,その点で,引用発明は,本願補正発明に対応するものである。したがって,審決が,本願補正発明の要旨に合わせて,引用発明についても一対のうちの一方を取り上げて本願補正発明との構成の対比を行い,一致点及び相違点の認定をしたことに,何らの誤りもない。
本願補正発明が,片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引用発明は,両足用のおしめ替え補助具であることを前提として,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は,その前提自体が失当である。』

(感想)
 進歩性の判断においては、「技術思想」を評価するのであるから、引用発明の製品の違いを主張しても技術的に共通するあるいは同質ものであれば、適用可能と言うことになろう。

相違点中のビジネスの方法的要素の扱い

2007-05-27 09:20:56 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10003
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『(4) 引用例1発明は,本願発明とは,
本願発明では,処理手段が売上額を累計する売上額累計手段を備え,処理手段が売上額の累計が特典を発生させる条件を満たしたときに特典の内容を付与するのに対し引用例1発明では,処理手段が来客者をカウントして累計人数を計算する手段を備え,処理手段が来客者の累計人数が特典を発生させる条件を満たしたときに特典の内容を付与する点」において相違する(相違点3)。

 しかし,前記2のとおり,引用例2には,売上金額を累計し,その累計額が一定の条件を満たした場合に所定の処理を行うことが記載されている。引用例2に記載されているのは,前記2(1)のとおり,商品販売データ処理装置であるが,本願発明の「サーバ」も,売上額を累計するものであるから,商品販売データを処理する点において引用例2に記載されている装置と同じである

 そうすると,引用例1発明と引用例2に記載されている事項により,「処理装置が売上金額を累計し,売上金額の累計額が購入条件テーブルに格納されている予め設定したボーナスポイントを発行する条件を満足したときには,処理装置が購入者に対してボーナスポイントを発行する点数管理システム」を,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,容易に想到することができるというべきである。したがって,相違点3に係る本願発明の構成については,引用例1と引用例2から容易に想到することができる。』

(感想)
 所定の処理をボーナスポイントの発行とすること、については引用文献1,2には記載されていない。しかし、この点はビジネス手法としてありふれたもので適宜採用し得るものにすぎない。したがって、この判断は支持できると思う。
 思うに、進歩性について評価する場合、発明は技術思想の創作なのであるから、構成要素中の技術的意義を見いだせない純粋ビジネス要素については、原則として、実質的な相違点とするべきではなく、設計事項として処理されるべきであろう。

外国のみで周知である商標に類似する商標

2007-05-27 09:03:40 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10301
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘


『3 本件商標の法4条1項19号該当性
(1) 原告商標の周知著名性について
ア証拠(甲3~10,16~24,26,32,34,35)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・

イ 以上の認定事実を総合すれば,原告ないしジェイマセドグループの「Dona Benta」商標は,ブラジル国内において,1979年(昭和54年)から原告ないしジェイマセドグループの業務に係る小麦粉等の商品を表示するものとして使用されるようになり,本件商標の出願がなされた平成10年〔1998年〕の時点で,原告は,小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位の企業となり,その間,新聞や雑誌等において「Dona Benta」商標を使用した広告も行い,その業務を紹介する記事も新聞等に掲載されていたのであるから,遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには,ブラジル国内で需要者の間に広く認識されるようになり,その周知性は,本件商標の登録査定時(平成11年11月5日,甲2)に至るまで継続していたものと認められる。』


『(2) 商標の類否について
 本件商標は「DonaBenta」から成るものであるのに対し,原告商標は「Dona Benta」の文字から成る商標であり,これらは,構成する欧文字に相応していずれも「ドナベンタ」の称呼を生じる。
 そして,本件商標と原告商標は,「Dona」と「Benta」の間に1字分のスペースを置くか否かの相違にすぎず,構成する欧文字は共通であるから,外観においても類似する。

 なお,「Dona Benta」は,ブラジル国においてはポルトガル語で「ベンタおばさん」という意味であり,同名の料理の本の題名として知られていることが認められるが(乙1,2,6の1),ポルトガル語についてなじみの薄い我が国においてそのように認識されると認めるに足る証拠はなく,「DonaBenta」ないし「Dona Benta」から,特定の観念が生じるものとは認められない。

 以上によれば,本件商標と原告商標は,称呼が同一であり,外観も類似するものであるから,本件商標は,原告商標に類似する商標と認められる。』

『(3) 不正の目的による使用について
ア 証拠(甲12,甲29,乙4,9,11,17,18。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる
・・・

イ (ア) 原告の「Dona Benta」商標がブラジル国内において遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには需要者の間に広く認識されていたものと認められることは上記(1)のとおりであるところ,上記アに認定したところによれば,被告は日本在住の日系ブラジル国人向けのブラジル国食品を製造販売していたものであり,上記出願時より前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍していたのであるから,被告は,上記出願当時,「Dona Benta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることを認識していたものと認めるのが相当である

 そして,被告が本件商標を使用する商品の主な需要者は,在日の日系ブラジル国人であり,原告商標の上記周知性にかんがみると,これらの需要者の多くは,原告ないしジェイマセドグループの業務に係る商品表示として原告商標を認識していること,及び,本件商標の出願当時,被告においてもこのことは認識していたものと推認される

 そうすると,それにもかかわらず被告において,原告商標と極めて類似する本件商標をあえて採用し,登録出願したのは,ブラジル国において広く認識されている原告商標の名声に便乗する不正の目的をもってしたものと認めるのが相当である。』


『(イ) また,被告は,「Dona Benta」とは,ベンタおばさんという意味で,著名な作家である「MONTEIRO LOBATO」の話の中に出てきた人物であり,ブラジル国おけるベストセラーの料理本(甲29の20,乙19)の題名も「DONA BENTA」であるから,「Dona Benta」は,原告商標が唯一の由来となっているものではなく,被告が本件商標を使用することは全く不自然なものではないと主張する。

 確かに,・・・,上記料理本の書名「DONA BENNTA」も,被告が本件商標を採用した理由の一つになっていることは否定できないかもしれない。
 しかし,被告は,前記のとおり,本件商標の出願当時,「DonaBenta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることをも認識していたと認められるのであるから,被告が本件商標を採用した理由の一つに上記料理本の存在があるとしても,本件弁論に顕出された一切の事情を考慮すると,このことが,原告商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を採用したとの上記認定を妨げるものということはできない。』


『(エ) さらに,被告は,仮に原告商標がブラジル国内において一定の知名度があったとしても,複数の国で著名であるいうほどでもない商標に関しては,本件商標の出願時において,当該主体(原告)が当該商標の下で現に日本に進出中であるか,近々日本に進出することを計画しているということを出願人(被告旧会社)が認識していない限りは,法4条1項19号に該当することはないと主張する

 しかし,法4条1項19号の「不正の目的」とは,同号括弧書きにあるように,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正な目的をいうのであり,これを被告主張のように限定して介さなければならない理由はない。そして,被告は,原告商標の名声に便乗する目的をもって本件商標を採用したことは上記認定のとおりであるところ,これが不正の利益を得る目的に該当することは明らかというべきであるから,被告の上記主張は採用できない。』



無効の抗弁に対する再抗弁の取り扱い

2007-05-27 07:34:19 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)27193
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設楽隆一

『6 原告の弁論再開申請について
原告は,本件の弁論終結後,平成19年5月9日付け準備書面及び甲39,40の写しを提出し,平成19年2月9日付けで,本件特許2の請求項1について訂正審判を申し立てたこと,及び,これにより近々訂正審決がなされる予定であるので,弁論の再開を希望する旨の上申をしている

確かに,この訂正審判の申立ては,本件特許2の無効の抗弁に対する再抗弁として主張することが可能な事由ではある(平成19年3月6日の口頭弁論期日においても主張し得る事由ではあった。)。しかし,この訂正審判の申立ては,本件訂正請求2に加え,特許請求の範囲に,①「前記所定のタイミングから計時を開始するタイマが所定時間計時する間に遊技媒体が投入されないときに,遊技がされていない状態であることを検出する状態検出手段」,②「遊技媒体が投入されると前記特別の遊技音を復して出音させる」を追加するものであるにすぎず,これにより前記無効理由が解消されるとはいえないと思料される

すなわち,・・・のであるから,

これらの訂正は,遊技メダルの投入が一定時間なければゲームをしていないと判断する,あるいは,遊技メダルを投入した時点でゲームをすると判断する点を強調しただけにすぎないものである(・・・。)。

結局のところ,この訂正後の本件訂正特許発明2も,乙18発明も,ゲームの進行に必要な動作が一定時間ない場合に,ゲームを行っていないと判断し,その音量を下げる点に差異はなく,前記のとおり,スロットマシンとパチンコ機とは互いに技術の転用が可能なものであることなど,上記3,4で述べたことを考えると,上記訂正後の本件訂正特許発明2も,前記の乙37発明及び乙18発明等から容易に想到し得たものと思料される。したがって,本件においては,弁論を再開する必要性は認められない。』

(筆者感想)
 裁判所は、通常、「明らかである」とか、「言うべきである」とか、断定調に記載するところ、ここでは、「思料する」に留めている。この後、特許庁で行われる訂正審判に過度に鑑賞しないように配慮したものと思われる。
 一体的に早期に解決するには、訂正審判の訂正内容について、侵害訴訟の方である程度踏み込んで判断せざるを得ないのであるから、両者が併走する場合においては、訂正審判の重みは軽くなっていくことだろう。

 ここ数年、判決の品質は向上しているように感じる。裁判所においては量・質ともに両立して体制の充実が図られ、それが奏功しているようだ。代理人(弁理士)、行政(審査・審判官)は、良いお手本から学び、あるいは、議論を深めることができるだろう。

 それにしても、時代の流れを感じる。今後、特に中間に存在する行政は、その在り方を問われることになるかもしれない。