事件番号
平成18(行ケ)10301
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘
『3 本件商標の法4条1項19号該当性
(1) 原告商標の周知著名性について
ア証拠(甲3~10,16~24,26,32,34,35)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・
イ 以上の認定事実を総合すれば,原告ないしジェイマセドグループの「Dona Benta」商標は,ブラジル国内において,1979年(昭和54年)から原告ないしジェイマセドグループの業務に係る小麦粉等の商品を表示するものとして使用されるようになり,本件商標の出願がなされた平成10年〔1998年〕の時点で,
原告は,小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位の企業となり,その間,新聞や雑誌等において「Dona Benta」商標を使用した広告も行い,その業務を紹介する記事も新聞等に掲載されていたのであるから,遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには,ブラジル国内で需要者の間に広く認識されるようになり,その周知性は,本件商標の登録査定時(平成11年11月5日,甲2)に至るまで継続していたものと認められる。』
『(2) 商標の類否について
本件商標は「DonaBenta」から成るものであるのに対し,原告商標は「Dona Benta」の文字から成る商標であり,これらは,構成する欧文字に相応していずれも「ドナベンタ」の称呼を生じる。
そして,本件商標と原告商標は,「Dona」と「Benta」の間に1字分のスペースを置くか否かの相違にすぎず,構成する欧文字は共通であるから,外観においても類似する。
なお,「Dona Benta」は,ブラジル国においてはポルトガル語で「ベンタおばさん」という意味であり,同名の料理の本の題名として知られていることが認められるが(乙1,2,6の1),ポルトガル語についてなじみの薄い我が国においてそのように認識されると認めるに足る証拠はなく,「DonaBenta」ないし「Dona Benta」から,特定の観念が生じるものとは認められない。
以上によれば,本件商標と原告商標は,称呼が同一であり,外観も類似するものであるから,本件商標は,原告商標に類似する商標と認められる。』
『(3) 不正の目的による使用について
ア 証拠(甲12,甲29,乙4,9,11,17,18。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる
・・・
イ (ア) 原告の「Dona Benta」商標がブラジル国内において遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには需要者の間に広く認識されていたものと認められることは上記(1)のとおりであるところ,
上記アに認定したところによれば,被告は日本在住の日系ブラジル国人向けのブラジル国食品を製造販売していたものであり,上記出願時より前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍していたのであるから,被告は,上記出願当時,「Dona Benta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることを認識していたものと認めるのが相当である。
そして,
被告が本件商標を使用する商品の主な需要者は,在日の日系ブラジル国人であり,原告商標の上記周知性にかんがみると,これらの需要者の多くは,原告ないしジェイマセドグループの業務に係る商品表示として原告商標を認識していること,及び,本件商標の出願当時,被告においてもこのことは認識していたものと推認される。
そうすると,
それにもかかわらず被告において,原告商標と極めて類似する本件商標をあえて採用し,登録出願したのは,ブラジル国において広く認識されている原告商標の名声に便乗する不正の目的をもってしたものと認めるのが相当である。』
『(イ) また,被告は,「Dona Benta」とは,ベンタおばさんという意味で,著名な作家である「MONTEIRO LOBATO」の話の中に出てきた人物であり,ブラジル国おけるベストセラーの料理本(甲29の20,乙19)の題名も「DONA BENTA」であるから,「Dona Benta」は,原告商標が唯一の由来となっているものではなく,被告が本件商標を使用することは全く不自然なものではないと主張する。
確かに,・・・,上記料理本の書名「DONA BENNTA」も,被告が本件商標を採用した理由の一つになっていることは否定できないかもしれない。
しかし,被告は,前記のとおり,本件商標の出願当時,「DonaBenta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることをも認識していたと認められるのであるから,被告が本件商標を採用した理由の一つに上記料理本の存在があるとしても,本件弁論に顕出された一切の事情を考慮すると,このことが,原告商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を採用したとの上記認定を妨げるものということはできない。』
『(エ) さらに,
被告は,仮に原告商標がブラジル国内において一定の知名度があったとしても,複数の国で著名であるいうほどでもない商標に関しては,本件商標の出願時において,当該主体(原告)が当該商標の下で現に日本に進出中であるか,近々日本に進出することを計画しているということを出願人(被告旧会社)が認識していない限りは,法4条1項19号に該当することはないと主張する。
しかし,
法4条1項19号の「不正の目的」とは,同号括弧書きにあるように,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正な目的をいうのであり,これを被告主張のように限定して介さなければならない理由はない。そして,被告は,原告商標の名声に便乗する目的をもって本件商標を採用したことは上記認定のとおりであるところ,これが不正の利益を得る目的に該当することは明らかというべきであるから,被告の上記主張は採用できない。』