知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許発明の用語の意義の解釈事例

2012-10-08 22:59:31 | 特許法70条
事件番号 平成23(行ケ)10253
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、武宮英子
特許法70条1項、特許法29条2項

ア 本願明細書の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりであり,その「リン光ドーパント材料」の「リン光」については,「黄燐を空気中に放置し暗所で見るときに認められる青白い微光」等の意味があり(甲9),一義的に定まらないから,その技術的意義は,本願明細書の発明の詳細な説明を参照して認定されるべきである。そして,上記(1) 認定の事実によれば,本願明細書の段落【0016】に「用語“リン光”は有機分子三重項励起状態からの発光を称し」(上記(1)ア )と記載されることから,本願発明の「リン光」とは,有機分子の三重項励起状態のエネルギーから直接発光する現象を指すものと理解され,この解釈は,当該技術分野における一般的な用法(同ウ)に沿うものである。
 ・・・
 一方,引用発明の発光材料は,・・・と記載されることから(上記(1)イ ),三重項励起子のエネルギーを希土類金属イオンに移行させ,当該イオンの励起状態から発光させるものであって,三重項励起状態のエネルギーを直接発光させるものではないと解される。そうすると,引用発明における発光は,本願明細書で定義され,当該技術分野における一般的な用法による「リン光」と同義とはいえない。
 ・・・
 上記アのとおり,引用発明は,三重項励起子エネルギーを希土類金属イオンに移行させて発光するという機構に基づく発光素子であるのに対して,本願発明は,当該技術分野で通常用いる意味での「リン光発光材料」の発光分子上で励起子を直接捕捉するものであるから,両者の発光機構は異なる。また,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用発明の構成が,導電性有機材料及び希土類金属の有機金属錯体が使用された発光素子において,発光効率が高くかつ有効寿命の長い有機エレクトロルミネッセント素子を提供することを目的として採用されたものであり,当該素子に特有の構成であるから,引用例1において,その発光材料を,別の発光機構のものに変更する動機付けはないというべきである。

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