知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

36条6項1号および2号の判断事例

2008-11-09 22:10:00 | 特許法36条6項
事件番号 平成20(行ケ)10116
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 36条6項1号に関する判断の誤り(取消事由3)について
 原告は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件特許発明の「残部」は,シートを折り曲げたときに残部が互いに当接することがないように,残部の水平方向の厚さが薄いことが必要であり,残部の大部分が当接してしまうような水平方向に厚い残部は,これに含まれないとして,「残部」という要件を含む請求項1ないし5に記載された発明は,発明の効果を奏する範囲を超えた不当に広い技術的範囲となっており,発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張する(前記第3,3)。
 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

(1) 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載
 ・・・
(2) 判断
 ・・・
 そうすると,【0010】の「互いに当接することもなく」ということは,折曲線を挟んだ残部が全面的に当接するものでないことを意味するにとどまり,まったく当接しないことを意味するものと解すべきではない。そして,残部が有意に傾斜していれば,当接する部分が存在するとしても,当接しない部分も必然的に生じ,その当接しない部分が折り曲げ易さに貢献するといえるので,発明の詳細な説明に記載された「残部が当接しない」ことによる効果は生じるものである。また,【0013】に記載されたように,折曲部形成方向Yに対する傾斜角度や残部の肉厚等は,シートの肉厚及び材質,並びにシートの用途に応じて適宜決定されるべきものであり,一義的な特定はできないものと認められる。

 これらの事情を考慮すると,発明の詳細な説明には,残部が傾斜していることによる効果が記載されている。その効果を生ずるための最低限の構成は,残部の境界線が,(有意に)傾斜していることであると理解できる
 そして,「(有意に)傾斜した境界線」の構成が請求項に特定されていれば,請求項に係る発明と,発明の詳細な説明に記載された効果を生ずるものが対応しているといえるので,更にそれに加えて「残部の肉厚」等を請求項で特定していないとしても,請求項に記載された発明は発明の詳細な説明に記載されたものであると認められる。

 請求項1ないし5には,境界線(請求項1ないし4。ただし,請求項4は請求項1ないし3を引用する。)又は壁部(請求項5。後記4(2)イのとおり,壁部について「傾斜」という概念を用いることはできる。)が傾斜していることが記載されているから,請求項1ないし5に記載された発明(本件特許発明)は発明の詳細な説明に記載されたものであると認められ,36条6項1号を充足しているものと認められる。
したがって,原告の前記主張は採用することができず,取消事由3は理由がない。


4 36条6項2号に関する判断の誤り(取消事由4)について
 原告は,本件特許発明の「境界線」の意味が不明確である旨主張する(前記第3,4(1))。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
(1) 特許請求の範囲の記載,発明の詳細な説明の記載
・・・
(2) 判断
ア 上記のように,本件特許発明1における凹部は,形成刃が押圧されてシートに入り込むことにより形成されることが想定されているから,形成刃が入り込んだ,多少でもくぼんだ部位が凹部であるとみるのが相当である。そして,形成刃が入り込んでいない部分は,元のシート厚がそのまま残っているから,本来のシート厚に相当するシートの最も厚い部分が残部で,シートの厚みが減少し始める部位が,残部における端縁ということになり,平面視の場合,この端縁が残部と凹部の境界線として認識されることになる
 そうすると,残部はシート厚がそのまま維持されている部分であり,凹部と残部の境界線は,シートの厚みが多少でも減少し始める箇所の線分を意味すると認められる。

 なお,本件訂正明細書には,「つまり,残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である。・・・」(【0028】)と記載されており,シート厚より残部が薄いことも排除されていない。したがって,残部がシート厚と必ずしも同じ厚みである必要はなく,平面視において,残部の最も厚い部分からシートの厚みが減少し始める箇所の線分が境界線になるとするのが相当である。

 以上によれば,本件特許発明1(請求項1)の「境界線」の意義は明確であるものと認められる。

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