知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用発明の認定に本願明細書に記載の先行技術を参照できるか

2008-11-09 20:40:53 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10017
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

イ 原告らは,本願明細書(甲2,3)の図と引用例(甲1)の図を比較してみると,本願明細書(甲2,3)の先行技術1を示す図3は,歯ブラシ毛の直径「0.2」mmの記入の有無を除いて,引用例(甲1)の図3とほとんど同一であり,本願明細書の【0006】の記載からみても,本願明細書(甲2,3)に記載された先行技術1とは,引用例(甲1)の【0010】に記載された技術にほかならないことになると主張する。

 しかし,引用例(甲1)の図3と,本願明細書(甲2,3)の先行技術1を示す図3とがほとんど同一であったとしても,歯ブラシ毛を硫酸溶液に浸漬した長さという重要な技術事項につき,本願明細書(甲2,3)の【0006】には記載がないのであるから,引用例(甲1)の【0010】に記載された約8~9㎜という長さと一致するかどうか比較することができない。したがって,原告らが指摘する事項をもってしても,両者につき,当然に,同一技術に関する同じ事実について記載されたものということはできない

・・・

カ 原告らは,引用例(甲1)に記載された事項について,出願後に頒布された別の刊行物の記載を参酌して事実を認定することは許され,裁判例にも,出願時以降の刊行物中に出願前の技術に関する記述があるという理由により,これを出願前の技術水準を認定する資料とした事例もある,本願明細書(甲2,3)に記載された先行技術1は,引用発明に関するものであるから,引用発明の認定に際して,これを参酌することは許されると主張する。

 しかし,前記イ,ウに説示したとおり,引用発明の内容は,あくまで引用例(甲1)の記載から把握される技術内容に従って認定されるべきであり,これを本願明細書(甲2,3)の内容を参酌して認定できるとすれば,本願明細書(甲2,3)の記載内容のみから本願発明の進歩性を判断できることにもなりかねず,さらに,そもそも本願明細書(甲2,3)に記載された先行技術1と引用発明とを当然に同一の技術ということはできないにもかかわらず,引用例に開示される引用発明の内容を,本願発明(甲2,3)の先行技術1の記載を参酌して認定することもできないのであって,このことと,出願時以降の刊行物中に出願前の技術に関する記述がある場合にこれを出願前の技術水準を認定する資料とすることとは全く別の事項である。

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