知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明確性(法36条6項2号)が争われた場合の用語の意義の確定事例

2012-03-11 22:04:51 | 特許法36条6項
事件番号 平成23(行ケ)10108
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(ア) 本件審決は,本件発明1ないし3における水などのプロトン性物質の量に関して,「4-ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」の「反応に関与できる状態にあるプロトン性物質の存在」を必要とするものであるから,プロトン性物質については,ゼロではなく,有意な量が必要であるとする
 しかしながら,本件明細書では,「調節された量」について,・・・,下限値がゼロであってはならないとの記載はなく,むしろ,無水条件下で行うことができるかもしれないことが記載されているのである。
 しかも,実施例において,反応系に水は添加されていない。むしろ,無水条件化の方が,収量が最大となることが示されているものである
。・・・。

(イ) したがって,プロトン性物質の「調節された量」について,プロトン性物質として水を使用した場合には,無水条件,すなわち,当該水の量がゼロの場合が含まれるものということができる。

(ウ) この点について,被告は,本件発明1において,水などのプロトン性物質が存在することを前提として,その「調節された量」について,「4-ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」を意味するものであると主張するが,以上認定の限度では,その前提自体が誤りであるといわなければならない。被告の主張は採用することができない。

エ 小括
 以上からすると,「調節された量のプロトン性物質」には,プロトン性物質として水を使用した場合であるが,無水条件が含まれるのであるから,プロトン性物質が存在しない状態が含まれるものといわざるを得ない。
 したがって,「調節された量のプロトン性物質」について,「4-ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」として,「アニリンとニトロベンの反応に関与できる状態」で反応物中に存在している必要があるとした本件審決の判断は,無水条件を含まないという趣旨であるならば,誤りであるというほかない。

 もっとも,「調節された量のプロトン性物質」について,上記のとおり,プロトン性物質が存在しない状態が含まれるものと解し得る以上,「調節された量のプロトン性物質」の意義それ自体が不明確であるというわけではなく,明確性の要件に違反するということはできない

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