知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許前と同様な手法で特許発明を解釈した事例

2009-09-13 11:44:04 | 特許法70条
事件番号 平成20(ワ)12501
事件名 特許権侵害行為差止請求事件
裁判年月日 平成21年09月03日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(3) 争点1-2(被告製品は構成要件Cを充足するか)について
ア 原告は,被告製品における解除片35の形状が,構成要件C1の「前記下端部(スナップ片に連結された解除片の下端部のことを指す(構成要件B4参照)。)から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」に含まれると主張する

そこで,特許請求の範囲に記載された「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」の意義について検討する

(ア) 「下端」とは,「下のほうのはし」(広辞苑第5版519頁)を,・・・を意味するものである。

(イ) そうすると,「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」とは,言葉の通常の意味においては,・・・A・・・となる形状を意味するものということができる。

(ウ) これに対し,被告製品における解除片は,前記のとおり,連結片との結合部から単純に上方へ延びているものではなく,いったん外側下方に延び,基板接点部352(同点が一番下の部分となる。)において,鋭角状に大きく折れ曲がるような形で反転し,そこから上方に延びて,上端部(部品保持部20の側面に近接した位置)に至る形状である。
 このような被告製品における解除片の形状は,「・・・A・・・」であるとは,直ちに認め難い。

(エ) 以上のとおり,特許請求の範囲の「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」の用語から直ちに,かかる形状に被告製品の解除片の形状が含まれると解することはできない


イ そこで,本件明細書の中の「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」についての記載を検討する

(ア) 本件明細書には,発明の詳細な説明として,以下の記載がある(甲2)。
・・・

(イ) 上記のとおり,本件明細書では,「下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」とは具体的にどのような形状を意味するのかという点について,格別の説明はされておらず,「下端部」,「上端部」及び「若干」等の用語について,上記(2)アのような言葉の通常の意味とは異なる意味で用いる旨の,格別の定義も記載されていない

 また,本件明細書では,本件発明及び本件特許権の特許請求の範囲請求項1に係る発明の実施例として,実施例1ないし9が挙げられているが,これらは,いずれも,・・・となる形状のものであるということができ,被告製品の解除片のように,連結片との結合部から解除片がいったん外側下方に延び,基板接点部352において大きく折れ曲がるように反転した形状のものは挙げられていない

 このように,本件明細書では,本件発明における解除片が被告製品のような形状を採り得ることについて,記載も示唆もされていない。

(ウ) 被告製品における解除片の形状は前記1(2)ウのとおりであり,被告製品においてかかる形状が採られたのは,本件発明における脚片と解除片に相当する各部材とを一体化し,解除片において脚片の機能を兼ねるためであると考えられる。
 しかしながら,本件明細書では,このように解除片が脚片を兼ねる構成について,何らの記載も示唆もされていない。

(エ) したがって,本件明細書の記載からも,特許請求の範囲に記載された「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」に被告製品の解除片のような構成を含むものであると解釈することは,困難である

ウ以上のとおりであるから,被告製品が構成要件C1を充足すると解釈することはできないというべきである。

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