知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権者が第三者に通常実施権を設定した場合の独占的通常実施権者の地位

2013-04-14 22:54:52 | 特許法その他
事件番号 平成21(ワ)23445
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾

c これに対し被告は,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日付けでその旨の登録がされていることからすると,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の独占的通常実施権者であるとはいえないし,また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明の特許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件発明1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の実施について事実上独占しているということもできない旨主張する。
 確かに,証拠(甲1,10,55)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日に,晃伸製機を通常実施権者として,「範囲」を「地域日本国内,期間本契約の締結の日から本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部」とし,「対価の額」を「無償」とする通常実施権の設定登録が経由されたことが認められる。

 一方で,前掲証拠によれば,原告キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングが平成15年7月18付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を作成した当時の両原告の代表取締役社長であったBは,平成17年3月25日に晃伸製機に上記通常実施権の設定がされた当時も,引き続き原告日環エンジニアリングの代表取締役に在職し,上記通常実施権の設定及びその設定登録を了承していたことが認められる。
 そして,特許法77条4項は,専用実施権者は,特許権者の承諾を得た場合には,他人に通常実施権を許諾することができる旨規定しており,同規定は,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても専用実施権を有することに影響を及ぼすものではないことを前提としているものと解されるものであり,かかる規定の趣旨に鑑みれば,特許権者が独占的通常実施権を許諾した後に,その独占的通常実施権者の了承を得て,第三者に通常実施権を設定した場合には,通常実施権が設定されたからといって直ちに当該独占的通常実施権者の地位に影響を及ぼすものではないというべきである。

 また,本件においては,原告キシエンジニアリングが原告日環エンジニアリング及び晃伸製機以外の第三者に本件特許権1の実施権を許諾していることをうかがわせる証拠はなく,また,晃伸製機が本件特許権1の特許発明の実施品を現実に販売していることを認めるに足りる証拠もないことに照らすならば,晃伸製機に対する上記通常実施権の設定によって,原告日環エンジニアリングによる本件独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上の独占が損なわれたものということはできない

 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

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