知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明細書の要旨

2009-03-08 10:04:04 | 特許法104条の3
事件番号 平成20(ワ)4056
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年03月05日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

(1) 要旨変更の判断基準
「明細書の要旨」とは,旧特許法上その意義を定めた明文の規定がないものの,特許請求の範囲に記載された技術的事項を指すものと解すべきである。
 したがって,特許請求の範囲を増加し,減少し,変更することは,その本来的意味においては,いずれも明細書の要旨を変更するものということができる。しかし,「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす」と定めているから(旧。特許法41条),当該補正が明細書の要旨を変更することになるか否かは,結局のところ,当該補正後の特許請求の範囲に記載された技術的事項が「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」か否かによって決せられることになる。

 そして,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,出願時の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,このように導かれる技術的事項との関係において,当該補正が特許請求の範囲の記載に新たな技術的事項を導入するものであるときは,当該補正は,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,明細書の要旨を変更するものということになる。以下,このような見地から本件補正が当初明細書の特許請求の範囲に記載された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものであるか否かを検討する。

・・・

したがって,当初明細書等に記載された発明は,「当接する」ことまでは要しないが,少なくとも複数の画像表示部が1つの画像を表示していると認識し得る程度に近接していることを要するというべきであって,各画像表示部が離れた位置にあることによって1つの画面を構成しないような画像表示装置は記載も示唆もされていないというべきである。そして,かかる構成が当業者にとって自明であったともいえない。

 補正事項①に係る補正後の特許請求の範囲の記載では「画像表示用の表示部を複数有し」とされているのみで,「複数の画像表示部が一つの画像表示がなされたと認識し得る程度に近接している」もの以外の構成を包含し得るものとなっているから,補正事項①に係る補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で,当初明細書等に開示された発明の構成に関する技術的事項に新たな技術的事項を導入するものというべきである。したがって,同補正は,当初明細書等の範囲内においてするものではなく,当初明細書等の要旨を変更するものというべきである。

・・・
以上により,本件補正のうち,少なくとも補正事項①に係る補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められず,明細書の要旨を変更するものであるので,補正事項②に係る要旨変更について判断するまでもなく,本件特許に係る出願は,旧特許法40条により,本件補正に係る手続補正書が提出された平成8年4月15日にされたものとみなされる。


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