知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

足裏電極事件(第1審)

2008-06-08 18:54:36 | 特許法104条の3
事件番号 平成20(ネ)10087
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年06月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳
控訴審はここ

『 (被告の主張)
(ア) 「足裏用電極」の存在しない体内脂肪重量計は,当初明細書に記載されておらず,当初明細書の記載から自明でもない
(イ) 本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含む。
(ウ) よって,本件発明は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されておらず,特許法36条6項1号に違反し,本件特許は,同法123条1項4号の規定により無効とされるべきである。
(原告の主張)
被告の主張(イ)は認め,(ア)及び(ウ)は否認する。』


『第3 当裁判所の判断
・・・
3 争点6-1(補正制限違反)について
(1) 当初明細書の記載
ア まとめ
 当初明細書に記載されている内容は,イ以下のとおり,
足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより,電気的接続を実現しているか,
「足裏用電極」を有しているため,「切換装置」を必要とする体内脂肪重量計であると認められる。
 したがって,本件発明の構成が当初明細書に記載されていると認めることはできない
(自明か否かの点は,次の(2)で検討する。)。

イ 特許請求の範囲
 当初明細書の特許請求の範囲は,請求項1ないし7の7つの請求項により構成されているが,いずれの請求項も構成要件に「足裏用電極」を含んでいることは,当事者間に争いがない。

ウ 課題を解決するための手段及び作用
 当初明細書の発明の詳細な説明中の課題を解決するための手段及び作用の記載(【0006】~【0008】)によれば,同所には,「足裏用電極」が本件発明の構成要件として記載されていることが認められる。
・・・

オ 実施例
(ア) 実施例1及び2
 当初明細書の発明の詳細な説明中に記載された実施例1及び2が,足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより,電気的接続を実現しているものであること(・・・)は,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。

(イ) 実施例3
 当初明細書の発明の詳細な説明中の実施例3の記載(【0020】)によれば,同所には「足裏用電極」と「足用電極」とを有し,それらの「切換装置」を具備した体内脂肪重量計が記載されており,この構成においては,足裏用電極を経由することなく,嵌合部がコネクターとなり,第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続されていることが認められる。

カ 本件発明の課題等
 当初明細書の発明の詳細な説明中の発明が解決しようとした課題等の記載(・・・)によれば,同所には,本件発明が解決しようとした課題について,「足裏用電極」について触れずに,「抵抗の大きな靴,靴下を着用した状態でも,簡単に,正確に体内脂肪重量を推定することができる体内脂肪計付体重計を提供する事」(【0005】)であると記載されていること,効果の欄にも,同旨の記載があること(【0023】)が認められる

 しかし,【0005】の記載は,「足裏用電極」を有する従来の脂肪計付体重計の問題点を指摘した上でのものであり(【0004】),直後に続く課題を解決するための手段(【0006】及び【0007】)においては,「足裏用電極」を構成要件とする構成が記載されている。
 効果についての【0023】の記載も,「足裏用電極」を構成要件とする実施例1ないし3の効果の記載(【0022】)に続くものであるよって,【0005】又は【0023】が,「足裏用電極」を構成要件としない構成を記載していると認めることはできない

(2) 当初明細書の記載からの自明
ア 電気的接点
 原告は,足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより電気的接続を実現している方法においても,「足裏用電極」は単に「足用アタッチメント」の「第2の電極」と「インピーダンス測定装置」とを結ぶ電気的回路の途中に存在する「電気的接点」又は「導線」の役割しか果たしていないから,「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成は当初明細書の記載から自明である旨主張する
 しかしながら原告が指摘する発明が, 解決しようとした課題等の記載(前記(1)カ)を併せ考慮しても,前記(1)に説示の内容を有する当初明細書の記載から「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成が当業者に自明であると認めることはできない

イ嵌合
 次に,原告は,当初明細書には,足用アタッチメントを載置台に直接嵌合し,嵌合部がコネクターとなり第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続される方式の体内脂肪重量計が記載されているから(【0009】),「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成は当初明細書の記載から自明である旨主張する

 しかしながら,前記(1)に説示のとおり,当初明細書に記載された構成は,嵌合部がコネクターとなり第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続される方式のものであっても「足裏用電極」を構成要件に含むものであるから,原告が指摘する発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1)カ)を併せ考慮しても,当初明細書の記載から「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成が当業者に自明であると認めることはできない

(3) 補正後の本件発明
 本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含むことは,当事者間に争いがない(被告は,本件発明の充足論におけるクレーム解釈においては,本件発明は「足裏用電極」を具備するものに限られる旨主張するので,念のため判断すると,本件発明(請求項14)の文言上,そのような限定はないこと,「足裏用電極」を具備しない場合でも,発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1)カ)を解決し,作用効果を奏することができることからすると,本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含むものと認めるのが相当である。)。

(4) まとめ
よって,第2回補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でする補正とはいえないから,特許法17条の2第3項に違反するものであり,本件特許は,同法123条1項1号に該当し,無効とされるべきものであり,原告は,同法104条の3により,同権利の行使をすることができない。』

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