知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

優先権主張の利益を享受で きず新規性がないとされた事例

2012-05-05 09:27:37 | 特許法104条の3
事件番号 平成23(ネ)10069
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 控訴人は,本件特許発明1にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にし」たとの限定も,「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との限定も,基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではないとして,これらの構成が特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載された発明に基づ」かないとする原判決は誤りであるなどと主張する。

 しかしながら,・・・基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)にも,・・・基礎出願明細書2(図面を含む。乙3)にも,・・・基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」するとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきである。

 この点,控訴人は,当業者であれば基礎出願明細書1の段落【0005】等の記載から基礎出願において従来技術にはない小さな傾斜角度の旋回溝という技術的事項を採用したことを理解できるところ,旋回溝の傾斜角度やガイド溝の具体的な構成を開示するために明細書に添付されたのが,クランプロッドの下摺動部分の展開図である図2であって,当業者は図2から具体的な傾斜角度を理解できるなどと主張する。しかしながら,上記図2には寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことに照らしても,上記図2は装置の部材の概要を示した模式図にすぎず,図面から具体的な傾斜角度を読み取ることができる性格のものではないことが明らかである。また,本件特許発明1のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

 なお,原判決が判示するとおり(62頁),上記図2からガイド溝(旋回溝)間の隔壁の厚さとガイド溝の溝幅の大小関係を一応看取することができるとしても,当業者において「隔壁の最小厚さ」を「ガイド溝の溝幅」よりも小さくするという技術的思想まで看取することは困難であるから,本件特許発明1の「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との構成(発明特定事項)についても,改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでなく,かかる観点からも,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できないというべきである。

 そして,控訴人が上記平成14年10月2日以前(同年4月8日)に製造・販売を開始した「スイングクランプLH」は本件特許発明1の実施品であるから,本件特許発明1に係る特許(本件特許1)は新規性(特許法29条1項2号)を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
 控訴人は,「スイングクランプLH」は,製造装置(製造工程で使用される装置)の一部にすぎず,納入先での分解や改造は禁止されているから,「スイングクランプLH」の製造・販売によって同製品に係る発明が公然実施されたことになるものではないなどと主張する。しかしながら,「スイングクランプLH」の購入者が同製品を分解してその構成を知ることができなかったことを窺わせるに足りる事情は証拠上存しないのであって,控訴人の上記主張を採用することはできない。また,被控訴人らによる新規性欠如の主張や特許法104条の3の抗弁の提出が権利濫用であるということもできない

原審 大阪地方裁判所平成21年(ワ)第1193号 裁判長裁判官 森崎英二

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