知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

課題が新たに発生する組み合わせ、本願発明との対比による副引用例の認定

2009-09-06 12:38:24 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10345
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


2 取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について
 当裁判所は,以下の理由により,審決が,引用発明1に引用発明2を適用して相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易であると結論づけたことには誤りがあると判断する。

 すなわち,容易想到性があると判断するためには,引用発明1と引用発明2の組み合わせによって,本件発明の引用発明1との相違点に係る構成に到達することが容易であったことを論証することが必要となる。審決は,引用発明1に引用発明2を適用することの容易性を判断する前提として,引用発明2の内容を認定したが,本件発明の用語を使用したこともあり,引用発明2の内容の認定に誤りが認められる
 その点の審決の誤りは,引用発明1に引用発明2を適用することの容易性の判断に影響を及ぼすものと解されるので,取消事由に該当すると判断した。以下,詳細に述べる。

(1) 審決の認定,判断
まず,審決の理由(引用発明の認定,容易想到性の判断)を転記する。
ア 引用発明2についての審決の認定
引用発明2についての審決の認定は,以下のとおりである。
なお,引用例2は,いわゆる副引用例であるが,審決は,その技術内容について,記載に基づいて客観的に事実認定するのではなく,本件発明1と対比して,判断(主観的な評価)を加えた上で認定している。
 ・・・

 前記のとおり,審決は,
① 本件発明1の肘掛部は,引用発明2の抱持枠27とは異なり,それ自体が膨縮や振動を伴ったり,施療位置の変更や移動を伴うことはないものであるにもかかわらず,「引用発明2における『抱持枠27,27』は,その構成又は機能からみて本件発明1における『肘掛部』に相当」すると認定した点,及び
② 本件発明1の肘掛部上面に配設した膨縮袋群は,単に,膨縮袋を対設して配置し,両側から挟持して圧迫感のある施療を実施できる機能のみを有するものではなく,内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させる機能を有するものであるにもかかわらず,「引用発明2の『指圧頭30と指圧頭31との間で大腿部イを握持して指圧すること』は,本件発明1と『立上り壁内側部に配設された押圧部材と肘掛部の上面に配設された押圧部材との対設させた押圧部材間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした』点で共通しているとのみ認定した点
で,認定を誤った。

 そして,審決は,その事実認定を前提として,引用発明1の外側壁を『湾曲状に形成された立上り壁』とするとともに,「外側壁に対向する対向面を『肘掛部の上面』とし,各肘掛部を『肘掛部の上面をこの湾曲状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状に形成』することについて,容易に想到できたとの結論を導いたものであるから,その判断にも誤りがあるというべきである。

 すなわち,審決は,相違点1に係る構成に関し,その機能について格別の検討をすることなく,専ら,立上り壁と肘掛部上面の形状に着目して,容易想到であると判断した
 この点,例えば,引用発明1において,肘方向外側に弧状形成された対向壁に設けられた空気袋は,弧状の形状に沿って斜め上方から手部に押圧力が加えられるのであるから,仮に,内側対向壁を肘掛部上面に置換したたとするならば,外側弧状に形成された対向壁に設けられた空気袋によって,手部が押圧方向と反対方向へ逃げることになり,さらに肘掛部から脱落することが考えられる。したがって,そのような新たに発生する課題を解決することは,必ずしも容易であるとはいえない。すなわち,対向壁を肘掛部上面とした場合に,押圧によって発生し得る手部の「逃げ」や「脱落」という課題を解決するための構成を想到することは,容易とはいえない

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