知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

課題解決に向けてあえてしようとする場合の動機付け

2009-09-06 13:43:06 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10405
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


(2) 課題を解決する手段としての「近傍に配置すること」
 位置決めの際に,位置決めが必要となる部材同士の組(相違点にいう「接続電極部」)と位置決め部材の組(同「位置決め部」)を互いに近傍に配置することにより,位置ずれが小さくなることは当業者にとって自明の事項であると認められる。
 しかしながら,本件相違点は,上記第2の3のとおりであり,引用発明に基づいて本件補正発明の相違点に係る構成とするためには,位置決め部について,本件補正発明における「前記第1の壁に対して垂直方向から見たときに,前記位置決め部の中心軸は,前記接続電極部の幅内にあり,且つ,前記位置決め部および前記接続電極部が,前記前壁の短辺と平行な方向に配列されている」との構成を採用する必要があるから,本件審決による相違点についての判断の適否を検討するに当たっては,「近傍に配置すること」によって,このような構成を実現することができるかどうかについて検討しなければならない。

(3) 「近傍に配置すること」と本件相違点に係る構成
 引用例の記載によると,引用発明におけるインクカートリッジは,インクカートリッジホルダに接合する面が長方形であるものを想定していると認められるところ,その長方形の内部において,インク導入口のような他の必要な部材と共に回路基板及び開口穴を配置しようとする場合,これらの部材をスペースに余裕のある長手方向に配列しようとするのが自然な発想であり,あえて短手方向に複数の部材を配置しようとするには,何らかの示唆に基づくそれなりの動機付けを必要とするというべきである。
 したがって,引用発明において,回路基板と開口穴とを近傍に配置しようとしたからといって,必ずしも本件補正発明の相違点に係る構成を採用することとなるわけではない。

 これに対し,本願明細書の記載によると,本件補正発明において,本件相違点に係る構成が採用されたのは,接続電極部における位置ずれを極めて小さくし,製造のばらつきによる位置決め部を中心とする上下の回動による影響も最小限に抑えようとの動機に基づくものであると認められるところ,上記(1)のとおり,そもそも引用発明が課題として製造のばらつきを意識したものであるとは認められないし,引用例における位置決め機構に関する上記3の記載や他の記載において,本件相違点に係る構成を示唆する記載が存在するとは認められない。
 そうすると,引用発明に基づいて,本件補正発明との本件相違点に係る構成を採用することは,当業者にとって単なる設計事項であるということはできないというべきである。

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