知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

拒絶理由の形式で通知されていない引用例(防御権行使の機会の有無)

2008-10-05 09:28:53 | 特許法50条
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=36848&hanreiKbn=06
事件番号 平成19(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


1 特許法159条2項に違反する手続の誤り(取消事由1)について
(1) 特許法は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合には,拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する(同法159条2項,50条)。

 同法159条2項の趣旨は,審判官が,新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは,あらかじめその理由を出願人(拒絶査定不服審判請求人)に通知して,弁明ないし補正の機会を与えるためであるから,審判官が拒絶理由を通知しないことが手続の違法を来すか否かは,手続の過程,拒絶の理由の内容等に照らして,拒絶理由の通知をしなかったことが出願人(拒絶査定不服審判請求人)の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かの観点から判断すべきである

・・・

ク まとめ
上記の手続過程の要点は,以下のとおり整理することができる。すなわち,
(ア) 本願発明の進歩性に関し,原告は,平成17年5月9日付け手続補正(甲6,甲9)の段階から,アンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えることが進歩性を基礎付ける旨の主張をしていた(前記(2)イ,ウ)。

(イ) 平成18年3月29日付け拒絶査定(甲10)において,連結部材を円周方向に不連続な複数の円弧状部にすることが従来周知の技術手段であることを示すものとして引用例2(甲2)が挙げられ,連結部材においてアンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えるという,引用発明2の「突出部材32」,「空間33」,「フック部34」に対応する構成について具体的な指摘がなされた(前記(2)エ)。

(ウ) 原告は,平成18年5月19日付け審判請求書(甲11)において,引用例2について・・・本願発明の如き周方向連続壁を開示するものではないと主張した(前記(2)オ)。

(3) 判断
 上記認定した事実に基づき,審判官が,拒絶理由の通知をしなかったことが原告の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かを判断する。
 前記(2)ク(ア)ないし(ウ)によれば,拒絶査定の理由の実質的な内容は,
① 本願発明と甲1記載の引用発明1との間に,「・・・」という相違点(審決で認定されたのと同様の相違点(前記第2,3(2)ウ))があること,
② その相違点に係る構成は,甲1記載の引用発明1に,引用例2(甲2)や特開昭63-68159号公報に記載されている周知技術(引用例2に記載された「フツク部34」に係る構造)を適用することにより容易に想到し得ること,であったものと認められる。

 そして,原告は,拒絶査定の理由の実質的な内容が上記のとおりであることを認識した上で,引用例2(甲2)に記載された「フツク部34」と「突出部材32」を検討し,審判請求書(甲11)において,甲2記載の引用発明2と本願発明が相違するという趣旨の反論をしたものと認められる。

 そうすると,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由が拒絶理由通知等の形式により通知されていないとしても,原告は,拒絶査定によって,その実質的な理由を認識し,それについて具体的に検討した上で反論,補正を行っていると認められるから,出願人である原告の防御権行使の機会を奪うことはなく,その利益保護に欠けることはないと解される。

 したがって,審判官が,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由を通知しなかったとしても,それが手続の誤りとして違法となることはないというべきである。

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