知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

不法行為と不当利得

2008-10-05 10:01:42 | Weblog
事件番号 平成20(ネ)10031
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成20年09月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

9 争点10(不当利得の成否)について
 原告らは,①民事法務協会に対する法務局内におけるコピー機設置場所の提供行為,及び②本件土地宝典の貸出行為により,被告が不当な利益を得ていると主張する

 しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。

 すなわち,民法703条は,法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け,そのために他人に損失を及ぼした者は,その利益の存する限度において,これを返還する義務を負う旨を規定する。

 ところで,コインコピー機を設置したのは,民事法務協会であり,本件土地宝典を複製したのは,不特定多数の第三者であり,そのいずれの行為についても,被告自らが行ったものではない

 被告は,民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を得ているが,当該使用料は,国有財産(建物の一部)を占有させたことによる対価の性質を有するものであって,使用許可を受けた民事法務協会が,コインコピー機を設置し,不特定多数の第三者に本件土地宝典の複製をさせることによって受けるコピー代金に関連して得たものではない(乙20)。
 また,民事法務協会が不特定多数の第三者に本件土地宝典の複製をさせることによって受けるコピー代金は,当該第三者によるコピー機の使用の対価であり,その金額は複写に要したコピー用紙の数量により定まるものであって,当該第三者が本件著作権の使用料を支払ったか否か,あるいは,そもそも複写の対象が本件土地宝典であったか否かによって,左右されるものではないから,そもそも民事法務協会についても,本件土地宝典の複製行為によって,民法703条所定の「利益」を得たということはできない。

 そうすると,被告が本件土地宝典の複製行為によって,民法703条所定の「利益」を得たと解する余地はない。

 この点について,原告らは,被告には,その行為を合法化するために必要な支出を免れた利得があるなどと主張するが,失当である。

 不法行為の制度は,加害者が被害者に対して,被害者の受けた被害を金銭賠償によって回復させる制度であるのに対して,不当利得の制度は,法律上の原因がないにもかかわらず,一方が損失を受け,他方がその損失と因果関係を有する利益を有する場合に,衡平の観点から,その点の調整を図る制度であって,それぞれの制度の趣旨は異なる
 不当利得が成立するか否かは,あくまでも,損失と因果関係を有する利益を得ているか否かという,不法行為とは別個の観点から吟味すべきであることはいうまでもない。原告らの主張によれば,不法行為が成立する場合は,常に,加害者が利益を得ている結果となり不合理である。

 以上のとおり,不特定多数の第三者のする本件土地宝典を複製した行為が,不法な行為であり,かつその行為により利益を得ていると評価される場合に,当該行為が,不法行為のみならず不当利得をも構成することがあり,また,コピー機の設置場所を提供し,本件土地宝典を貸与する被告の行為が,幇助態様による民法719条2項所定の不法行為を構成すると評価されることがあったとしても被告が原告らの損失と因果関係を有する利益を得ていない以上,不当利得は成立しない。原告らの主張は,採用することができない。

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