知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

拒絶査定不服審判請求時の補正を独立特許要件を欠くとして却下した手続きが適正手続違反とされた事例

2011-11-07 23:21:26 | 特許法50条
事件番号 平成22(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 したがって,拒絶査定不服審判請求に際して行われた補正については,いわゆる新規事項の追加に該当する場合や補正の目的に反する場合だけでなく,新規性,進歩性等の独立特許要件を欠く場合であっても,これを却下すべきこととされ,その場合,拒絶理由を通知することは必要とされていない

 ところで,平成6年法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。審査段階と異なり,審判手続では拒絶理由通知がない限り補正の機会がなく(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。),拒絶査定を受けたときとは異なり拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決(拒絶審決)を受けたときにはもはや再補正の機会はないので,この点において出願人である審判請求人にとって過酷である

 特許法の前記規定によれば,補正が独立特許要件を欠く場合にも,拒絶理由通知をしなくとも審決に際し補正を却下することができるのであるが,出願人である審判請求人にとって上記過酷な結果が生じることにかんがみれば,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念を欠くものとして,審判手続を含む特許出願審査手続における適正手続違反があったものとすべき場合もあり得るというべきである。

(4) 本件においてされた補正却下に関する事情として,
本件補正の内容となる構成が補正前の構成に比して大きく限定され,すなわち,・・・を中心に具体的構成を特定するものであって,補正発明の構成に係るものであるが,この新たな限定につき現に新たな公知文献を加えてその容易想到性を判断する必要のあるものであったこと,
② 審尋で提示された公知文献はそれまでの拒絶理由通知では提示されていなかったものであること,
③ 審尋の結果,原告は具体的に再補正案を示して改めて拒絶理由を通知してほしい旨の意見書を提出したこと,
後記2で判断するとおり,新たに提示された刊行物2の記載事項を適用することは是認できないこと,
などの事実関係がある。
 本件のこのような事情にかんがみると,拒絶査定不服審判を請求するとともにした特許請求の範囲の減縮を内容とする本件補正につき,拒絶理由を通知することなく,審決で,従前引用された文献や周知技術とは異なる刊行物2を審尋書で示しただけのままで進歩性欠如の理由として本件補正を却下したのについては,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けたものとして適正手続違反があるとせざるを得ないものである。

 本件においては,審判においても,減縮的に補正された歯車の具体的構成に対し,その構成を示す新たな公知技術に基づいて進歩性を否定するについては,この新たな公知技術を根拠に含めて提示する拒絶理由を通知して更なる補正及び意見書の提出の機会を与えるべきであったというべく,この手続を経ることなく行われた審決には瑕疵があり,当該手続上の瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすべき違法なものであるから,原告主張の取消事由1には理由がある。

(つぶやき)刊行物2が適用可能で④がなければどう判断されたのだろうか。

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