知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告による残部請求の訴えを提起

2008-10-04 18:19:04 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)7416等
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年09月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

1 本訴請求(本案前の答弁)について
(1)本訴請求は,要するに,甲6公報が存在することにより本件特許について取消理由が存しないにもかかわらず,本件特許異議申立てを行った被告の行為は,権利濫用によるものとして不法行為に当たるとして,被告に対し,損害賠償を請求するものである。

 他方,前提事実(3)ア及びイによれば,前訴事件①及び前訴事件②における請求は,いずれも,本件特許異議申立てを行った被告の行為が不法行為に当たるとして,被告に対し,損害賠償を請求するものである。

 以上のとおり,本訴請求,並びに前訴事件①及び前訴事件②に係る請求は,同一の請求を含むものの,いずれも損害額として主張する金額の数量的な一部請求をしていることから,訴訟物としては別個のものであると解される

(2)ところで,一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して上記額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。
 数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない
 したがって,上記判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。
 以上の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第849号,同10年6月12日第二小法廷判決,民集52巻4号1147頁)。

(3) これを本件についてみると,前述のとおり,本訴請求は前訴事件①,前訴事件②における請求と同一の不法行為による損害賠償請求権に基づく請求であり,前訴事件①及び前訴事件②の判決が確定した後に,前訴事件①,前訴事件②の残部請求に該当する本件訴えを提起することは(甲19及び乙3から,本訴が前訴事件①,前訴事件②の判決確定後に提起されていることが明らかである。),実質的に,前訴事件①,前訴事件②で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,上記各前訴事件の確定判決によって,当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである

 そして,本件については,原告において,本訴に係る訴えを提起することがやむを得ないといった特段の事情も認められない。
 したがって,前訴事件①,前訴事件②において敗訴した原告が,本訴に係る訴えを提起することは,信義則に反して,許されないというべきである。

最新の画像もっと見る