知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

技術常識等を加味して引用文献を認定し直し組み合わせの論理を修正した事例

2010-05-30 11:05:53 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10295
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

〔被告の主張〕
本件審決の認定判断には原告主張のような誤りはない。
・ 引用発明2との関係
ア 引用発明2の認定について
  ・・・
・ 小括
 以上によれば,引用発明2において,銅製のリードフレームと金ワイヤーとの接合部の温度は不明であり,融点以下であって銅製のリードフレームが塑性流動を伴う金と銅とが塑性流動するとの記載がなく,銅製のリードフレームと金ワイヤーの接合部を「金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させ」ていると認定することができないとした本件審決に誤りはない

第4 当裁判所の判断
 ・・・
イ引用発明1の内容について
 以上によると,引用発明1は,接続表面が貴金属層を予め備えており,コイルリードが熱圧着溶接を達成するために接続表面に対して強く押さえ付けられるものであって,この貴金属として金が,コイルリードとして銅が例示されている。
 そして,前記 エのとおり,熱圧着とは「複数の部材を融点以下の適当な温度で圧力を加え密着させて,塑性変形を起こさせ,双方の清浄面の接触によって接合させる方法」であるから,引用発明1には,金と銅との塑性流動を生じさせ得る温度範囲で加熱させつつ,加圧することが示されているということができる。

 ・・・

イ しかるところ,引用例2において,金と銅との接合層の特性を全率固溶体と金属間化合物との対比において記載していること,そして,その記載は金と銅との接合層に関する一般的な記載であると解されることからすると,引用発明1における「金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,」「加圧すること」によって形成された接続構造であるAu/Cu合金についても,全率固溶体か金属間化合物か,そのいずれかの相であるとみることができる。
 そして,引用発明1において,ICの接続表面とコイルリードとの接点は,前記 イのとおりAu/Cu合金をもって形成されるものであるところ,上記のとおりの引用例2の全率固溶体は金属間化合物に比べて,電気抵抗が小さく,化学的に安定し,機械的強度の劣化のない高信頼性の半導体装置を得ることができるとの開示に基づくと,引用発明1における接合のAu/Cu合金についても,金属間化合物を避けて,Au/Cu全率固溶体が形成されるように想到することは,当業者において容易であるということができる。

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