知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引例の組み合わせの際、主引例の要請に照らして行う補助引例に対する設計変更

2008-02-03 17:50:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10155
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『第3 当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(相違点3についての判断の誤り)の要点審決は,以下のとおり,相違点3についての判断を誤った結果,本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。
(1) 審決は,「引用発明1では,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするという要請が内在することは明らかである。」と判断したが(以下,当該要請を「本件要請」という。),以下のとおり,この判断は誤りである。』

『1 原告の主張(1)について
 原告は,審決が「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」と判断したことについて,「引用発明1においては,販売者が『最新の商品情報』を送ること及びその結果として商品検索システムに公開される情報が『常に最新のもの』になっていることと,消費者の利点とを結び付けて検討されていないのであるから,引用発明1に本件要請が内在するということはできない。」と主張するので,以下検討する。
(1) 引用例1(発明の名称・「商品検索システム」)には,次の各記載がある。
・・・
(2) 上記(1)の各記載のとおり,引用発明1は,欲しい商品,その価格等に係る商品情報を得ようとする消費者が,ネットワークを介してこれを簡単に得ることができる商品検索システムを提供することを目的とするものであり,複数の販売者から一定のタイミングで商品情報を受け取り,これに消費者のニーズに合ったデータ加工(例えば,各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工)を加え,当該加工後の商品情報をインターネット上に公開し,消費者からアクセスがあった場合に,希望の商品に関する商品情報を消費者端末に送信するという商品検索システムである
 これにより,販売者は,常に最新の商品情報による商品の広告を行うのと同じ効果を得ることができ,他方,消費者は,欲しい商品に係る商品情報を簡単に得ることができる。

 このように,引用発明1は,販売者から,「常に最新の商品情報」を受け取り,このようにして受け取った「常に最新の商品情報」に対し,各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工を加えてインターネット上に公開し,消費者端末からのアクセスを可能にするものである(・・・・)。

 他方,商品の購入を考える消費者にとって,商品情報中,商品の価格が必須のものであることは自明の事項であり,さらに,特定の販売者のホームページ等ではなく,複数の販売者に係る商品情報を各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工を加えてインターネット上に公開する引用発明1の商品検索システムにアクセスする消費者のほとんどが,同種商品間における価格の比較,すなわち,同種商品中の最安値に係る情報を求めていることもまた,社会通念に照らし,自明の事項であるといえる。

 以上からすると,引用発明1に本件要請が内在することは明らかであるというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の主張(1)は理由がない。

(2) 上記(1)のとおり,引用例2には,「通信販売社」以外の販売者から商品情報を受け取る仕組みについての記載も示唆もなく,かえって,上記(1)の各記載によれば,引用例2に記載された通信販売方法は,通信販売事業を行う者が自己の販売する商品について,消費者の便宜,効果的な顧客管理等を考慮して採用するものであると認められるから,原告が主張するとおり,引用例2は,複数の販売者が存在することを前提としておらず,したがって,複数の販売者があって初めて成り立つ「最安値」の概念を開示し,又は示唆するものではないというべきである
 しかしながら,上記(1)のとおり,引用例2には,顧客の要請に基づき,商品ごとに,「商品の価格が変更されたとき」など任意の通知時期に,任意の通知方法により,顧客に対し,商品情報を通知するとの構成が開示されているところである。

 他方,引用発明1には,上記1のとおり,本件要請が内在するものであるから,消費者が最安値の最新の状況を常に把握することができるようにするため,引用例2に開示された,任意の通知時期に,任意の通知方法により,顧客に対し商品情報を通知するとの構成を,その「任意の通知時期」を「販売価格の最安値が変更されたとき」として,引用発明1に適用し,「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段」(相違点3に係る本願発明の構成)を得ることは,当業者であれば,容易に想到することができたものと認めるのが相当である。
 この場合に,引用例2に記載された発明自体が「最安値」の概念を有するものでないとしても,引用発明1に内在する本件要請に照らして,引用例2に開示された構成の「任意の通知時期」を「販売価格の最安値が変更されたとき」とすることは,当然に選択されるところであるから,「引用発明1に引用例2が開示する構成を適用した場合,当業者であれば,ある一つの販売店が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成に想到する」との原告の主張を採用することはできない。』

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