知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

著作権法114条3項にいう「受けるべき金銭の額」

2009-10-13 06:52:29 | 著作権法
事件番号 平成21(ネ)10042
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成21年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 著作権法114条3項にいう「受けるべき金銭の額」
 著作権法114条3項は,著作権者は故意又は過失によりその著作権を侵害した者に対し,その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができることを定めるところ,同項は,著作権者が受ける通常の使用料相当額を最低限の損害賠償額として保証する趣旨の規定である。
 そして,同項の著作権の行使につき「受けるべき金銭の額」との文言は,平成12年法律第56号による改正前の同法114条3項における「通常受けるべき金銭の額」との文言が改正されたものであり,同改正の趣旨は,同項の使用料相当額の認定に当たっては,一般的相場にとらわれることなく,当事者間の具体的事情を考慮して妥当な使用料額を認定することができるようにする,というものであると解される

(2) 本件における事情
・・・

(3) 本件各映画の著作権の使用料相当額
 上記(2)イのとおり,使用料率の一般的な相場として,現実の販売価格の20%又は25%とされていることからすると,一般に現実の販売価格よりも高額であると考えられる表示小売価格を基準とする場合には,使用料は使用料率についての相場を適用する場合よりも実質的に高額となる。
 しかしながら,本件各映画については,上記(2)ア(エ)のとおり,控訴人とジェネオンとの間の本件基本契約及び本件個別契約によって,・・・,DVD1本当たり●円を使用料とすることが合意されていたのであり,しかも,この合意が独占的,かつ,排他的な許諾を前提とするものであったのであるから,少なくとも本件各映画については,著作権者である控訴人が,同条件を下回る条件において,第三者に対して使用を許諾することは想定できないというべきである。

 そうすると,本件各映画の著作権の使用料相当額について,表示小売価格よりも廉価で販売されることを想定して,使用料相当額の算定の基準を変動させるべき理由はないというべきであるから,・・・と算定すべきである。

(4) 被控訴人の主張について
 被控訴人は,本件DVDの現実の販売価格が1000円であったと主張して,したがって,著作権法114条3項の規定を適用して被控訴人が控訴人に対して賠償すべき損害金の額を算定する場合にも,当該販売価格を基準に損害金の額が算定されるべきものであるかのようにいうが,控訴人において,正規の取引において,前記認定の使用料を得べかりしものであった以上,その使用料を基準に著作権法114条3項の規定を適用することに問題はなく,仮に正規の取引においては,その実施料を当該取引の実情に応じて減額するようなことがあったとしても,著作権侵害に係る輸入・販売行為が行われた本件において,前記認定の実施料を下回る損害金の額しか賠償を求め得ないというべき事情はなく,被控訴人の主張は失当というほかない。

 さらに,被控訴人は,本件DVDを購入するのは,高額な前記表示価格が設定されたままでは本件DVDを購入し得ない消費者であるから,結局のところ,控訴人に損害は生じていないようにも主張するが,仮にそのような事情が認められるとしても,被控訴人による本件DVDの輸入・販売行為が著作権侵害に当たるものである以上,控訴人が受けるべき金銭の額に相当する額を損害金として賠償すべきは当然であって,この点の被控訴人の主張も失当といわざるを得ない。

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