知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

進歩性の判断における特許請求の範囲の用語の意義の認定手法

2008-02-03 17:49:01 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10413
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について
(1) 本願発明の「テレスコピックシャフト」と引用発明の「ステアリングシャフト」について
 原告は,本願発明における「テレスコピックシャフト」は2つの管状部材が「伸縮自在」である点において,引用発明におけるアウターシャフトとインナーシャフトが専ら「収縮」するだけの「ステアリングシャフト」と異なるとして,両者が一致するとした審決の判断は,一致点を誤認し,相違点を看過したものであると主張するところ,引用発明の上記構成については,当事者間に争いがないので,以下,本願発明の「テレスコピックシャフト」の技術的意義について検討する。

ア 「テレスコピックシャフト」の一般的意義
 まず,「テレスコピック」の一般的な語義について見るに,この語が英語の「telescopic」に由来するもので,その一般的な語義は「伸縮自在の」,「入り子式の」などの意味を有するものであることは各種の英和辞典から明らかであり,被告においてもこの点を争うものでないことは弁論の全趣旨に照らして明らかである。そして,本願発明と技術分野を同じくする自動車技術に関する「自動車用語中辞典」(平成8年9月15日,株式会社山海堂)305頁(甲第8号証)には,「テレスコピック・ステアリング」について「ステアリングホイールが軸方向に伸縮するもの」との記載があることからすると,自動車の技術分野において,「テレスコピック」といえば,一般的には,「伸縮自在な」動きを意味するものと解するのが相当というべきである。

 しかしながら,当然のことではあるが,語句の解釈は,上記のような当該語句が有する一般的な語義を前提としつつも,当該語句が使用される文脈との関係においてその意味を確定することが不可欠であり,上記のような一般的な語義をそのまま適用すればよいといったものではない。そこで,本件における「テレスコピック」の語の意味を本願発明の請求項1の文脈において検討することとする。

イ 本件出願の請求項1の記載における「テレスコピックシャフト」の意義
 請求項1は前段と後段の2つの段落から成るところ,前段には,2つの管状部材を「・・・軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせて成り,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフト」と規定されているから,上記「テレスコピック」を前項の一般的な語義に照らすならば,「2つの管状部材が「伸縮自在に」嵌め合わせて成(る)・・・テレスコピックシャフト」を意味するものと一応理解することができる

 そこで,更に進んで上記の理解が請求項1の後段においても矛盾なく採用され得るか否かについて検討するに,後段においては,「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」2つの管状部材は,そのうちの1つの抵抗手段を備えた管状部材が,他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用して,所定の摺動位置を超える短縮を歯の変形抵抗を伴って生じさせるものであることを規定しているから,後段における2つの管状部材の動きは,専ら,「収縮方向」の動きであって,2つの管状部材が伸張する方向に動く場合を含むものでないことは後段の記載から明らかである。

 そして,以上のことを踏まえて,請求項1を全体として見るならば,本願発明の特徴的構成が後段部分にあることや「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」と規定する前段部分において,2つの管状部材の動きの態様については何ら具体的に規定していないことなどに照らすと,請求項1は,後段に規定した本願発明の特徴的な構成,すなわち,上述した「収縮方向の動き」を実現するために,2つの管状部材の関係が「テレスコピック」の嵌め合い構造であることを規定したものと解するのが相当というべきである。

ウ 本願明細書における「テレスコピック」の用語法
 念のため,本願明細書の記載において,2つの部材が上記のように「収縮方向」にだけ動く場合にも「テレスコピック」なる用語が用いられるかどうかについて見るに,本願明細書には以下の記載がある。すなわち、

「・・・。」

「・・・。」

上記の各記載によれば,本願明細書においては,2つの管状部材から成るシャフトで専ら「収縮方向」にのみ動くものであってもこれを「テレスコピック構造」,「テレスコピックシャフト」などと呼んでいたことが認められるから,原告主張のように「テレスコピック」なる用語から直ちに嵌合関係にある2つの部材が「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難であるといわざるを得ない。

 したがって,本件出願の請求項1における「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」との規定部分をもって,2つの管状部材が原告主張のように「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難というべきであり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを得ないから,採用することは出来ない。

エ 結論
 引用発明のステアリングシャフトにおけるアウターシャフトとインナーシャフトが専ら「収縮」方向だけの動きをすることは当事者間に争いがないから,これと本願発明の「テレスコピックシャフト」を上記の点において一致するとした審決の判断に誤りはなく,審決に相違点の看過はない。』

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