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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する主体(カラオケ法理の主張)についての判断事例

2010-09-12 22:14:58 | 商標法
事件番号 平成21(ワ)33872
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告の行為主体性)について
(1) 原告は,
① 被告が,自ら勧誘した本件各出店者が出店するインターネットショッピングモール(楽天市場)を運営し,被告サイトを通じて,購入者(同希望者を含む。)からの要請に応じて,自らが管理運営するサーバに保管し,内容を点検可能な本件各商品に関する情報を顧客に送信し,表示させる行為,及び本件各商品について顧客から購入の申込みを受け,本件各出店者をして出荷,すなわち譲渡させる行為(・・・。)を行い,利益を上げていること,
② 被告は,出店者が楽天市場に出店し,商品を展示及び販売するに当たり,多くの支援・援助を行い,不適切な商品等についてはコンテンツを削除する権限を有していること,
③ 被告と本件各出店者の相互利用関係等にかんがみると,被告の上記行為ないし関与は,楽天市場における本件各商品の販売のための展示及び販売について,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で,少なくとも本件各出店者を幇助して展示行為及び販売行為を行ったものとして,商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当し,同様に,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当する旨主張する。
 ・・・

(3) 判断
 ・・・
 前記前提事実によれば,
① 被告が運営する楽天市場においては,出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について,顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし,出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し,出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること,
② 被告は,上記売買契約の当事者ではなく,顧客との関係で,上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば,被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については,当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって,被告は,その「主体」に当たるものではないと認めるのが相当である。

 したがって,本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても,その販売に係る「譲渡」の主体は,本件各出店者であって,被告は,その主体に当たらないというべきである。

イ (ア) これに対し原告は,楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。

 しかしながら,前記前提事実によれば,・・・,実質的にみても,本件各商品の販売は,本件各出店者が,被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり,本件各商品の販売の過程において,被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと,これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない
また,本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから,被告の計算において,本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない

 さらに,・・・,本件各商品の販売について,被告が本件各出店者とが同等の立場で関与し,利益を上げているものと認めることもできない。もっとも,本件各出店者と被告との間には,被告は,本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから,本件各出店者における売上げが増加すれば,システム利用料等による被告の収入が増加するという関係があるが,このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない

 以上によれば,被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

商標法4条1項7号該当性(公序良俗に反する)を認めた事例

2010-08-29 13:24:19 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10297
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

(3) 以上の事実を前提に,本件商標の商標法4条1項7号該当性を検討する。

ア 本件商標の出願における被告の悪意について
 前記認定のとおり,・・・,以上の点を総合考慮すれば,・・・,被告は,・・・,ASUSTeK社あるいはASRock社に先んじて「ASRock」という商標を自ら取得するために,本件商標の原基礎登録商標を出願したと推認するのが相当であり,少なくとも,本件商標の出願日(平成15年9月18日)においては,ASRock社が同社の製造販売する製品に引用商標を使用していることを知りつつ,本件商標の国際出願をしたと認めるのが相当である。

イ 本件商標の出願の目的について
 そして,
 被告の韓国における事業の実体は明らかではなく,・・・こと,証拠上,製品の販売形態はインターネットオークションへの出品という特異な形態に限られていること,
 被告は,・・・,我が国で事業を行っている証拠は存在しないことから(なお,「Yahoo!オークション」というインターネットオークションへの商品の出品をもって我が国における事業の実施と認めるのは相当ではない。),
 今後近い将来,我が国において本件商標の指定商品に関する事業を行う意思があるとは思われず,少なくとも,その可能性は限りなく低いと思われること,事業の実体がほとんどないにもかかわらず,電子機器関連の多数の商標を出願し,その中には,前述のとおり,他社が海外で使用する商標と同一類似の商標を故意に出願したとしか考えられない商標も複数含まれていること,
 被告は我が国で事業を行っていないにもかかわらず,本件商標登録後,原告を含め,引用商標を付したASRock社の製品を取り扱う複数の業者に対して,輸入販売中止を要求し,要求に応じなければ刑事告発・損害賠償請求を行う旨の多数の警告書を送付していること,
 韓国においては,ASRock社の製品の販売代理店に対して,過度な譲渡代金を要求していたこと,
以上の事実を総合考慮すると,本件商標は,商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。

・・・

ウ 以上のとおり,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。

称呼が同一の商標の類否の判断事例-類似を否定した事例

2010-08-29 11:53:55 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10101
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

ア 外観上,本件商標は,バラ色系の色彩が施され,右肩上がりに傾いたサクラ様の5弁の花びらの図形中に「きっと,」と「サクラサクよ。」の句読点を含む文字を二段に配置した構成からなる,図柄を含む華やかな商標であるのに対し,引用商標は,単に片仮名の「サクラサク」だけからなる商標であり,両商標は,その外観が大きく異なる

イ 他方で,本件商標からは「キットサクラサクヨ」又は「サクラサク」の称呼が生じ,引用商標からは「サクラサク」の称呼が生じるものであって,その称呼は同一になる場合もあり,少なくともかなり類似するものといえる

ウ また,本件商標からは,「きっと桜の花が咲くよ。」又は「きっと試験に合格するよ。」といった観念が生じ,引用商標からは「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」との観念が生じるものといえる。
 このように,両商標から生じる観念は,一定程度類似するが,引用商標からは,淡々と「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」という事実についての観念が生じるのに対し,本件商標からは,受験生等に対するメッセージ的な観念が生じるものといえ,生じる観念はある程度異なるものといえる。

エ このほか,証拠(・・・)及び弁論の全趣旨から,本件商標は,受験シーズンに専らキットカット商品に用いられ,このことはよく知られており,本件商標の付されたキットカット商品はかなりの売上げを示しており,他方で,引用商標は,受験シーズンに関係なく,袋菓子や焼菓子などに用いられていることが認められる。
 このように,本件商標が用いられたキットカット商品が,受験生応援製品として持つ意味合いは大きいものと認められ,このような本件商標の用いられたキットカット商品と,そのような意味合いの薄い引用商標が用いられた袋菓子等との間で誤認混同が生じるおそれは非常に低いものと認められる。

オ 以上を前提とした場合,確かに,本件商標及び引用商標から生じる称呼はかなり類似しており,観念においても,一定程度類似することは否定し得ないが,他方で,もともと「サクラサク」は1つのまとまった表現として常用されており造語性が低く識別力が限られている上,両商標の外観は大きく異なり,取引の実態をも考慮すると,両商標につき混同のおそれはないといえる。
 以上のように,本件での諸事情を総合的に考慮した結果,本件商標と引用商標とは,類似しないというべきである。

引用商標の商標権者が審決前に破産した場合

2010-08-15 20:59:22 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10396
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(3) 取消事由3(類否判断の誤り)について
ア引用商標2につき
 引用商標2に係る商標権は,平成13年8月30日に商標登録出願され,平成14年8月23日に商標登録されたものであり,その存続期間満了日が平成24年8月23日である(商標法19条)ところ,その商標権者である株式会社星籌は,平成6年2月14日に設立され,平成17年10月26日午後5時に,東京地方裁判所から破産手続開始決定を受け(同年10月28日登記),平成18年5月11日に東京地方裁判所の破産手続終結決定が確定し(同年5月15日登記),同年5月15日に同社の登記簿が閉鎖されたものと認められる(甲126)。
 また,同社の破産手続終結決定が確定した平成18年5月11日から引用商標2に係る商標権の存続期間満了日である平成24年8月23日までの間,同社(破産管財人を含む。)及び同社からの使用許諾を受けた第三者が,当該商標を使用した又は使用すると認めるに足りる証拠はない

 そうすると,本願商標の出願時である平成20年5月27日,拒絶査定時である平成21年2月24日及び審決時である平成21年10月28日において,引用商標2がその正当な権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって使用される可能性は極めて低いものと認められ,引用商標2と本願商標との間で商品の出所についての混同を生ずるおそれはないものというべきである。

 被告は,商標法4条1項11号にいう先願の「他人の登録商標」は,後願の同一又は類似商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続しているものであれば足り,現実に使用されていることを必要とするものではなく,また,商標権者が破産前に引用商標2の使用を許諾した第三者によって同商標が使用されている可能性や,将来,第三者が引用商標2に係る商標権を承継して使用する可能性も否定できないから,引用商標2が本願商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していた以上,本願商標と引用商標2との類否判断に影響を及ぼすものではないと主張する。

 しかし,引用商標2に係る商標権者については,本願商標の出願登録前に破産手続終結決定が確定しており,当該商標権の存続期間満了日までの間,引用商標2がその正当な権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって現実に使用される可能性は極めて低いものと認められるのであるから,引用商標2と本願商標との間で商品の出所についての混同を生ずるおそれはないものといえる。したがって,被告の主張は採用することができない

 以上のとおり,本願商標は,引用商標2との関係においては,商品の出所についての誤認混同のおそれのない非類似の商標であるから,商標法4条1項11号に該当するものではなく,この点に関する原告主張の取消事由3には理由がある。

登録商標に変更を加えた使用

2010-08-02 06:54:29 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10025
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 原告は,被告による本件商標の使用について,「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が付加された広告使用商標の使用は,本件商標と「社会通念上同一と認められる」商標の使用とはいえないと主張する。

 しかし,商取引の実際においては,登録商標が,その構成部分に適宜の変更を加えて使用されることは通常行われることであるから,そのような変更が当該登録商標の有する独自の識別性に影響を与えていない限り,なお同一の範囲に属する標章と認識するのが,需要者あるいは取引者の通念というべきであると解されるところ,広告使用商標については,別紙使用商標目録記載2,3のとおり,「POLO」の文字と「BRITISHCOUNTRY SPIRIT」の文字とが上下2段に分かれて配置されているが,上段の「POLO」の文字が大きく下段の「BRITISHCOUNTRY SPIRIT」の文字はごく小さいことからすれば,大きな文字が使用された「POLO」の部分の識別力が大きいものといえる。

 そして,「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が付加された広告使用商標の「POLO」の部分と本件商標はともに「POLO」の文字からなるもので,同一であるから,広告使用商標にごく小さな「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が付加されているとしても,本件商標の構成において基本をなす部分が変更されたとはいえず,本件商標と広告使用商標とは社会通念上同一の商標であると認めるのが相当であり,原告の上記主張は採用することができない。


平成22年07月14日 平成22(行ケ)10026平成22(行ケ)10027も同趣旨。

登録商標に変更を加えた使用

2010-08-02 06:47:12 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10025
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 原告は,被告による本件商標の使用について,「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が付加された広告使用商標の使用は,本件商標と「社会通念上同一と認められる」商標の使用とはいえないと主張する。

 しかし,商取引の実際においては,登録商標が,その構成部分に適宜の変更を加えて使用されることは通常行われることであるから,そのような変更が当該登録商標の有する独自の識別性に影響を与えていない限り,なお同一の範囲に属する標章と認識するのが,需要者あるいは取引者の通念というべきであると解されるところ,広告使用商標については,別紙使用商標目録記載2,3のとおり,「POLO」の文字と「BRITISHCOUNTRY SPIRIT」の文字とが上下2段に分かれて配置されているが,上段の「POLO」の文字が大きく下段の「BRITISHCOUNTRY SPIRIT」の文字はごく小さいことからすれば,大きな文字が使用された「POLO」の部分の識別力が大きいものといえる。

 そして,「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が付加された広告使用商標の「POLO」の部分と本件商標はともに「POLO」の文字からなるもので,同一であるから,広告使用商標にごく小さな「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が付加されているとしても,本件商標の構成において基本をなす部分が変更されたとはいえず,本件商標と広告使用商標とは社会通念上同一の商標であると認めるのが相当であり,原告の上記主張は採用することができない。

「パロディ」と商標法

2010-08-02 06:25:05 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10404
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(ウ) さらに補助参加人は,本件商標は,補助参加人の商標のパロディであって,補助参加人の商標の信用をフリーライドし,希釈化するものである等と主張する。

 しかし,「パロディ」なる概念は商標法の定める法概念ではなく,講学上のものであって,法4条1項15号に該当するか否かは,あくまでも法概念である同号該当性の有無により判断すべきであるのみならず,後記のとおり,原告は引用商標C等の補助参加人の商標をパロディとする趣旨で本件商標を創作したものではないし,前記のとおり,本件商標と引用商標Cとは,生じる称呼及び観念が相違し,外観も必ずしも類似するとはいえないのであって,必ずしも補助参加人の商標をフリーライドするものとも,希釈化するものともいうこともできない。

 したがって,補助参加人の上記主張は採用することはできない。

審理終結通知の送達後の補正

2010-06-30 06:38:41 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10409
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年06月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

第3 当事者の主張
1 請求原因

 ・・・
ア 取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)
 ・・・
 そして,商標法は,補正をすることができる時期に関し,商標登録出願をした者は,事件が審査,登録異議の申立についての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる旨を規定しているところ(商標法68条の40第1項),本件補正は,上記のとおり,審決が原告に送達される平成21年11月17日以前である同年10月23日,すなわち不服審判係属中になされているから,適法な補正である
 ・・・
 そして,本件では,平成21年8月20日の不服審判請求からわずか2か月後の同年10月20日に審理終結通知が送達されており,異例の速さで審理が終結されたといえること,審理終結通知は請求人(原告)に何ら予告もなく行われるものであり,本件もその例外ではなかったこと,このような経緯でなされた審理終結通知に対し,同通知到達から3日後に本件補正がなされていることからすれば,本件補正は補正にかかる手間と時間をいたずらに増加させて事件の処理能力の低下を招くものではなく,審査の大幅な遅延を招くようなものでもない。加えて,本件は,登録により公知になった事項を変更することにより法的安定性が害される場合にも当たらない。したがって,本件補正は,商標法68条の40第1項の趣旨に反するものではなく,実質的にも同条項による適法な補正である。


第4 当裁判所の判断
 ・・・
2 取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)について
 商標法68条の40第1項によれば,商標登録出願,防護標章登録出願,請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。
 しかし,一方で,商標法56条が準用する特許法156条1項,2項によれば,審判長は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならず,必要があるときは,当事者等の申立て又は職権で審理を再開することができるとされている。そして,「審決をするのに熟したとき」とは,審理に必要な事実を参酌し,取り調べるべき証拠を調べて結論を出せる状態に達したことをいうと解されるところ,審決をなしうる状態になったとして審理を終結した後であっても審決がなされるまでの間はいつでも補正ができるとなると,審理の進行に区切りがつかず審決に遅滞が生じ,ひいては審決ができない事態が生じるおそれがあることになる。

 したがって,事件が本件のように審判に係属している場合であっても,審理終結の通知により審理終結という効果が発生した後は,審理が再開されない限り手続の補正をすることはできず,審理終結通知が当事者に到達した後に提出された手続補正書は審判においてこれを斟酌することを要しないと解するのが相当である。

 ・・・
4 取消事由3(審理手続の違法)について
 審判手続における審理終結後に審理を再開するか否かは審判長の裁量に委ねられている上(商標法56条1項,特許法156条2項),本願商標と引用商標は,本件補正がなされたことを前提としても,指定商品において類似し,本件補正の有無によって審決の結論が左右されるものでないことは前記のとおりである。

 したがって,前記のとおり審理終結通知が送達されたのが平成21年10月20日であり,本件補正とともに審理再開の上申がなされたのがその3日後の平成21年10月23日であったとしても,本件審判において,その必要がないとして審理の再開が行われなかったことにつき,裁量権の範囲を明らかに逸脱する違法があったとまでいうことはできない。原告主張の取消事由3は理由がない。

類否判断事例-「和幸食堂」と「とんかつ和幸」

2010-05-23 18:15:15 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10256
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年05月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 しかしながら,本件商標からは,「ワコウショクドウ」という1連の称呼が生じ,また,「和幸」という名前の「食堂」といった観念が生じることは否定し得ないが,本件商標の称呼ないし観念が「和幸食堂」以外に生じる余地がないということはできない
 けだし,本件商標の「食堂」の文字部分は,「食事をする部屋」あるいは「いろいろな料理を食べさせる店」を意味する語(甲2)であるばかりでなく,本件商標の指定役務を提供する場所そのものを指す語であるから,本件商標中の「食堂」の部分からは,「和幸」の部分と一体となって,上記の称呼ないし観念が生じ得るとしても,それ自体で独立した,出所識別標識としての称呼及び観念までは生じないというべきであるからである。

 そうすると,本件商標からは,「和幸食堂」という当該商標の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるといわざるを得ないのであって,本件商標と引用商標との類否判断に際して,本件商標から「和幸」の部分を抽出することは当然に許されるべきものである。

 他方,引用商標のうち,引用商標2についてみると,同商標は,・・・,「とんかつ」の部分と「和幸」の文字部分とをその構成部分とするものであることは,視覚上,容易に認識することができるものであるところ,「とんかつ」の部分は,同商標の指定役務の対象そのものを表す語から成るものであるから,本件商標の「食堂」について説示したのと同様に,引用商標2の「とんかつ」の部分からは,それ自体で独立した,出所識別標識としての称呼及び観念は生じないものといわなければならない。
 そうすると,引用商標2からは,「とんかつ和幸」という当該商標の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるといわざるを得ない。

・ 本件商標と引用商標2との類否
上記・及び・によると,本件商標と,引用商標のうち,引用商標2とは,称呼において共通するものであり,両商標の外観の相違は,出所識別標識としての称呼及び観念が生じない「食堂」及び「とんかつ」部分が異なる程度にとどまるものであるから,そのような外観の相違を考慮してもなお,本件商標と引用商標2とが同一又は類似の役務に使用された場合には,当該役務の出所について混同が生じるおそれがあるというべきであって,本件商標は,引用商標2と類似するものと認めるのが相当である。

<判決中で引用した最高裁判例>
商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断しなければならない」(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)

「複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである」(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)

商標法4条1項10号の判断事例

2010-05-01 17:16:55 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10411
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


カ 商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」については,我が国において,全国民的に認識されていることを必要とするものではなく,その商品の性質上,需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には,その需要者の間に広く認識されていれば足りるものである。

 上記アないしオのとおり,・・・等の事実を総合すると,「ATHLETE」,「アスリート」及びこれらを冠する商標は,平成19年2月までに,原告が製造販売するガイドワイヤーの商標として,上記医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者の間に周知性を獲得し,その後も周知性を維持していると評価するのが相当である。

(3) 本件商標と原告の使用商標との類否
ア本件商標は,「ATHLETE LABEL」の欧文字から成る結合商標である。
 本件商標を構成する「ATHLETE」は「運動選手,競技者」等,「LABEL」は「貼り紙,ラベル」等を意味する英語の普通名詞である。
 本件商標が,「ATHLETE」と「LABEL」の2語から成り,その間にスペースがあることに照らすと,本件商標の各構成部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものということはできない
 そして,前記(2)認定のとおり,本件商標の一部を構成する「ATHLETE」の部分が,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し,原告の商品を示すものとして周知性を獲得し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,本件商標のうち「ATHLETE」の部分だけを,原告の使用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものというべきである

イ そうすると,本件商標からは,「ATHLETE LABEL」全体としてのみならず,「ATHLETE」の部分からも称呼,観念が生じるということができる。そして,後者の「ATHLETE」は,原告の使用商標のうち「ATHLETE」と同一の欧文字から成るものであり,両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ,「運動選手,競技者」という同一の観念が生じるから,その外観を考慮しても,両者は類似する

 したがって,本件商標「ATHLETE LABEL」が医療用腕環に使用されるときは,本件商標中の「ATHLETE」は,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において,周知の原告の使用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。

ウ しかるところ,1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。

エ よって,本件商標から生じる称呼,観念の1つである「ATHLETE」と原告の使用商標とが類似する以上,本件商標は,原告の使用商標と類似するものである。

<関連事件>
平成22年04月28日 平成22(行ケ)10005 裁判長裁判官 滝澤孝臣

商標権の行使を権利の乱用であるとした事例

2010-04-29 19:40:39 | 商標法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

イ上記認定事実によれば,コンセプト商標1,2は,先願に係る上記②,③の商標(②登録第3174405号,③登録第3219965号)と同一であるが,上記②,③の商標に係る商標権は,もともとファモティクないしアシュラジャパン(ファモティクの100%子会社)が,我が国における原告アシュラの代理店として,Vellum に関する事業を遂行するために取得したものであると認められる。

 原告アシュラとファモティクとの間で締結された販売代理店契約(甲1)によれば,Vellum に関するすべての権利(特許権,著作権,商標権を含む。)は原告アシュラの独占的財産権であると定められており(6条(a)),同規定の趣旨からすれば,ファモティクは,破産によりVellum 事業の継続をすることができなくなった以上,アシュラ商標権(上記①)とともに,上記②,③の商標権を原告アシュラに移転する義務を負っていたものというべきである。
 そして,ファモティクの代表取締役であったBは,ファモティクの破産後,原告コンセプトの取締役に就任しているのであるから(乙18,乙24の4),原告コンセプトは,上記経緯を当然認識していたことが認められる。すなわち,Bはファモティクの代表者として上記②,③の商標権の原告アシュラへの移転を履行すべきであったのにあえてこれを履行せず,他方,Bが取締役を務める原告コンセプトは,上記移転が履行されていないことに乗じて,これらの商標について不使用取消審判請求をし,その取消審決(・・・)を得た上,コンセプト商標権1,2の取得に及んだものであり,原告コンセプトのコンセプト商標権1,2取得に至る経緯は,原告アシュラとの関係において著しく信義に反するものと認められる

 したがって,原告コンセプトが,上記のような経緯で取得したコンセプト商標権1,2に基づき,原告アシュラの代理店である被告コムネットに対して,別紙標章目録記載1,2の標章の使用の差止めや,その使用(不法行為)による損害賠償を求めることは,著しく信義に反するものであり,権利の濫用として許されないというべきである。

商標法4条1項16号の判断事例

2010-04-13 07:18:29 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

4 商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無(取消事由3)について
(1) 前記3(1)ア認定のとおり,エチオピア国において産地によってコーヒーの風味が異なることからすると,産地に由来する本件商標をエチオピアのシダモ地方産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあるというべきである
 そして,審決書記載のとおり,特許庁における平成20年10月28日の第1回口頭審理の結果によれば,指定商品中の「コーヒー」は「焙煎後のコーヒー豆及びそれを更に加工した粉状,顆粒状又は液状にした商品(コーヒー製品)」のことであり,「コーヒー豆」は「焙煎前のコーヒー豆」のことである。

 したがって,本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号が規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとの審決の判断に誤りがあるということはできない。また,このように解することが,前記3(2)エ(ア)bのTRIPs協定の規定にも適合するというべきである。

 なお,前記3(2)イ認定のとおり,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方産」ではなく,単に「エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒー」を指すものと認識することがあり得るが,そうであるとしても,本件商標を「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方産以外のコーヒー,コーヒー豆」に使用した場合には,やはり品質誤認を生じるというべきであって,上記判断が左右されることはない

(2) 原告の主張に対する補足的判断
 原告は,本件商標は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」という商標法3条2項(特別顕著性)の要件を満たしているとも主張するが,商標法3条2項は,商標法3条1項3号~5号に該当するとしても商標登録を受けることができる要件であって,品質誤認について定めた商標法4条1項16号に適用されるものではない
 ・・・

(3) さらにいうならば,商標法46条1項ただし書は,商標登録の無効審判請求について,「商標登録に係る指定商品又は指定役務が2以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」と規定していることからすると,商標登録の無効審判請求は,指定商品又は指定役務ごとにすることができるところ,ここでいう「指定商品又は指定役務」は,出願人が願書で記載した「指定商品又は指定役務」に限られることなく,実質的に解すべきである。
 本件においては,既に述べたとおり,「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」とそれ以外の「コーヒー豆,コーヒー」では,商標法4条1項16号該当性において違いがあり,「指定商品」としても異なると解することができる。したがって,「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に係る部分には無効事由はないが,それ以外の部分には無効事由があるとの判断をすることができるというべきである

5 小括
以上によれば,
・・・
③ 本件商標は,指定商品「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」の限度では商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)に該当しないが,上記「SIDAMO(シダモ)地方」以外の地域については同号に該当する。
ということになる。

以下の判決も同趣旨
平成21(行ケ)10229
平成21(行ケ)10228
平成21(行ケ)10227

商標法3条1項3号の判断事例

2010-04-13 06:45:38 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2)ア ところで,商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁参照)。

イ そして,前記(1)認定の事実によれば,
① 我が国においては,「SIDAMO」又は「シダモ」は,これが「コーヒー,コーヒー豆」に用いられる場合,コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類を指すものとして用いられることが多いこと,
② 我が国において,「シダモ」が,エチオピアにおけるコーヒー豆の産地として用いられる場合があるが,その場合でも,上記銘柄又は種類としての「SIDAMO」又は「シダモ」の産地として用いられていることが多いこと,
③ 上記銘柄又は種類としての「SIDAMO」又は「シダモ」は,エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることが認められる(・・・)。

一方,証拠・・・によれば,エチオピアの「シダモ」(「SIDAMO」)という地名は,・・・,一般に我が国においては,エチオピアの「シダモ」(「SIDAMO」)という地名の認知度は低いものと認められる。

 そして,この事実と上記①~③の事実を総合すると,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,コーヒー豆の産地そのものというよりは,コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類,すなわち,エチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーを指すものと認識すると認められる。そうすると,本件商標は,自他識別力を有するものであるということができる。

 また,前記(1)認定の事実によれば,上記銘柄又は種類としての「SIDAMO」又は「シダモ」は,いろいろな業者によって使用されているのであるが,それがエチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り,原告による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることになるから,商標権者が原告である限り,その独占使用を認めるのを公益上適当としないということもできない

ウ したがって,本件商標登録が商標法3条1項3号が規定する「商品の産地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するということはできないから,取消事由1は理由がある。

以下の判決も同趣旨
平成21(行ケ)10229
平成21(行ケ)10228
平成21(行ケ)10227

商標登録無効審判請求の請求人適格

2010-04-12 21:29:10 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


2 被告に無効審判請求人適格が有るか(取消事由4)について
(1) 原告は,その取消事由4において被告には本件商標登録無効審判請求を請求する資格(請求人適格)がないと主張し,被告はこれを争うので,事案に鑑み,まずこの点について判断する。

 商標登録無効審判請求については,商標法46条が定めているが,その請求人たる資格については明示するところがない。
 しかし,商標登録の取消審判請求をすることができる者に関し同法50条1項が「何人も」と定めていること,商標登録無効審判請求に類似した制度である特許無効審判請求の請求人に関し特許法123条2項も「何人も」と定めていること,商標に関する審判手続を定めた商標法56条は特許法148条(参加)を準用しているところ,同審判手続に補助参加人として参加することができる者は「審判の結果について利害関係を有する者」に限られると定めていること,無効審判請求と類似した制度である民訴法の一般原則として,「利益なければ訴権なし」と考えられること等を考慮すると,商標法46条に基づき商標登録無効審判請求をする資格を有するのは,同条の解釈としても,審判の結果について法律上の利害関係を有する者に限られると解するのが相当である。

以下の判決も同趣旨
平成21(行ケ)10229
平成21(行ケ)10228
平成21(行ケ)10227

商標法4条1項11号に係る商標の類否の判断事例

2010-04-08 06:34:39 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10306
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官滝澤孝臣

1 取消事由(本件商標と引用商標との類否判断の誤り)について
 本件商標は,平仮名で記載された「いなば」と漢字で記載された「和幸」とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件決定が,本件商標からその構成部分の一部である「和幸」の文字部分を抽出し,当該抽出部分だけを引用商標と比較して,両商標の類否を判断したものであることは,別紙異議の決定書(写し)の理由から明らかである。
 しかしながら,商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)から,以下,その見地から本件決定がした本件商標と引用商標との類否判断が許されるものであるか否かについて検討する。
・・・
上記イの記事によっても,「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が,本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られているとまで認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。
・・・

(2) 本件商標から「和幸」の文字部分を抽出して観察することの当否
ア 本件商標は,「いなば和幸」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「和幸」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない
イ また,本件商標の「和幸」の文字部分の出所識別機能についてみると,・・・,引用商標との関係でみると,本件商標の「和幸」の文字部分が,本件役務に係る取引者及び需要者に対し,引用商標の商標権者である補助参加人が当該役務の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,その他,そのようにいうことができるに足りる証拠はない。

ウ さらに,本件商標の「いなば」の文字部分についてみると,・・・,本件商標が本件役務について使用された場合に,当該文字部分に自他役務を識別する機能が全くなく,当該文字部分から出所識別標識としての称呼及び観念が全く生じないとまでいうのは相当でないというべきである。
・・・

(3) 本件商標と引用商標との類否
 前記(2)において説示したところによると,本件商標と引用商標との類否判断に当たっては,本件商標の構成部分全体を引用商標と比較すべきであるところ,本件商標と引用商標とは,外観上,「和幸」の文字において共通性を見いだし得るにすぎないし,また,引用商標の「とんかつ」の文字部分が同商標の指定役務(本件役務)の対象そのものを表す語から成るものであることから,同商標からは「和幸」の文字部分に対応した「ワコウ」の称呼及び「豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念が生じるとしても,本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼及び「いなば(稲葉)に係る豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念しか生じないのであるから,結局,両商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても異なるものであるといわざるを得ず,これらが類似するということはできない。