徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

河津桜よ また来ん春のたねになるべき

2024-02-24 22:40:55 | 
 昨日は未明の強い雨と冬に逆戻りしたかのような寒風の中、坪井川遊水地の河津桜は散ってしまうのではと川沿いの道を歩いて見に行った。幸いまだそれほど散ってはいなかったがそろそろ今年の終わりが近いようだ。
 ところで河津桜の発祥地・河津といえば「伊豆の踊子」の舞台でもある。河津というひびきが僕を青春時代に誘う。
 川端康成の小説に次のような一節がある。場面は湯ケ野の木賃宿。
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 その次の朝八時が湯ケ野出立の約束だった。私は共同湯の横で買った鳥打ち帽をかぶり、高等学校の制帽をカバンの奥に押し込んでしまって、街道沿いの木賃宿へ行った。二階の戸障子がすっかりあけ放たれているので、なんの気なしに上がって行くと、芸人たちはまだ床の中にいるのだった。私は面くらって廊下に突っ立っていた。
 私の足もとの寝床で、踊子がまっかになりながら両の掌ではたと顔を押えてしまった。彼女は中の娘と一つの床に寝ていた。昨夜の濃い化粧が残っていた。唇と眦の紅が少しにじんでいた。この情緒的な寝姿が私の胸を染めた。彼女はまぶしそうにくるりと寝返りして、掌で顔を隠したまま蒲団をすべり出ると、廊下にすわり、「昨晩はありがとうございました。」と、きれいなお辞儀をして、立ったままの私をまごつかせた。
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 東京在勤の頃、会社の水泳仲間とともに西伊豆には何度も行った。ダイビングが目的だった。高校の時に読んだ「伊豆の踊子」のことはずっと頭の片隅にあったのでいつかは舞台となった東伊豆に行ってみたいと思っていたが、そのうち転勤となり願いはついに叶わなかった。河津桜を見ると必ずそのことを思い出す。
 また来年、一段と成長した河津桜が花を咲かせる頃を楽しみに待つことにしよう。


坪井川遊水地の河津桜


     ▼吉永小百合が歌う「伊豆の踊子」