漱石の「草枕」は読む度に新しい発見がある。今日も七章の重要な場面、画工が「那古井の宿」の湯槽につかる場面を読んでいた。画工があれこれ思いめぐらしながら湯に浸かっていると、どこからか三味線の音が聞こえてくる。遠くて曲目はわからないが、三味の音は画工の意識を、子供の頃の世界に飛ばす。近くの酒屋の娘が長唄のおさらいをやっていて「旅の衣は鈴懸の・・・」という唄声が聞こえてくる。そんな20年前の世界に浸っていると、突然風呂場の戸が開き、現実の世界に引き戻される。このあと、湯煙りの向こうに裸の那美さんが現れるという場面になるわけだ。
この三味の音とともに「旅の衣は鈴懸の・・・」という「勧進帳」の一節が聞こえたのは、漱石自身の幼い頃の実体験だったのかもしれないが、あえてこの唄を登場させたのは、画工が言う「非人情の旅」と何か通じるところがあるのだろうか。ふとそんな思いが湧いてきた。

漱石が投宿した前田家別邸

漱石が入った前田家別邸の浴場
この三味の音とともに「旅の衣は鈴懸の・・・」という「勧進帳」の一節が聞こえたのは、漱石自身の幼い頃の実体験だったのかもしれないが、あえてこの唄を登場させたのは、画工が言う「非人情の旅」と何か通じるところがあるのだろうか。ふとそんな思いが湧いてきた。

漱石が投宿した前田家別邸

漱石が入った前田家別邸の浴場