徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

けだし傑作! 映画「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」

2012-12-13 13:30:24 | 映画
 昨夜BSプレミアムで放送された伝説の名監督・山中貞雄の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」は噂に違わぬ傑作だ。28歳でこの世を去った山中貞雄の遺作「人情紙風船」は3年ほど前、やはりBS放送で観ることができたが、この「丹下左膳」はこれまでなかなか観るチャンスがなかった。大河内傳次郎演じる「丹下左膳」シリーズは何本か観ているのだが、この山中貞雄版「丹下左膳」は他の「丹下左膳」とはひと味違う。「人情紙風船」と同様、人情喜劇なのだ。今から77年も前の昭和10年にこんな洒落た映画を作った山中貞雄のセンスに脱帽だ。
 物語は、ある小藩に伝わるこけ猿の壺の中には先祖が残した埋蔵金百万両のありかが示されていた。そんな壺とも知らず、これをもらい受けた道場主である藩主の弟とその奥方、壺を取り戻そうとする藩主と家臣たち、父親を殺されて天涯孤独となった少年、その少年を引き取って育てることになった矢場の女将など様々な人物が丹下左膳とからむ人間ドラマが展開する。
 特に僕が好きなシーンをあげると、左膳から少年を引き取れと言われた矢場の女将が「あんな汚い子供なんか誰が引き取るもんか!」と吐き捨てながら、場面が切り替わると甲斐甲斐しく少年の世話をしていたり、少年が、他の子供たちのように竹馬に乗りたいというと「あんな危ないもの乗っちゃいけません!」と言いながら、場面が切り替わると竹馬に乗って遊ぶ少年の手助けをしている、等々の小さなオチの散りばめ方は秀逸だ。また、左膳お得意の大立ち回りは木刀での道場あらしの場面だけ。刀を抜くのも少年の父の仇を討つ一度だけで、扇情的な表現は極力避けているようだ。また、僕が嬉しかったのは矢場の女将を演じているのが芸者歌手として一世を風靡した新橋喜代三というキャスト。お得意の唄と三味線も披露してくれるが、僕は喜代三の動いている映像を見るのは初めてでちょっと感動。この音楽の使い方も美空ひばり時代劇が登場する20年も前に既にやっているわけでこれも凄いなと思う。
▼主な出演者
大河内傳次郎:丹下左膳
喜代三:矢場の女将お藤
沢村国太郎:道場主・柳生源三郎
花井蘭子:道場主の奥方萩野