のすたる爺や

文明の果てなる地からのメッセージ

濃い人たち

2024年05月14日 | 日記・エッセイ・コラム

 村に初越の小道と言う名所があるらしい。野草などが咲いていて、何よりも「初越え」が「初恋」を連想させるのだとかで、「ロマンチックねぇ」「恋人たちの小道?」とよその人は思うらしい。

 土着民の私はこの初越に住む人たちの顔が浮かぶ。村はずれの山の中の杣人の集落。

 同級生のミヤちゃんは無駄に足が速くて中学の時に1500m走の県大会で入賞している。変質者に追いかけられたことがあったが、やたら足が速いのでスカイラインGTRと現代自動車のレースのようなものだ。振り返ったらはるか後方に変質者が力尽きて座り込んでいた。だけど、ミヤちゃんは戸籍上女性なので近くの家に悲鳴を上げて逃げ込んだ。嫁いだ先も村内なので同窓会の幹事として活躍してもらっているので悪くは言えない。

 一級下にはアキ坊がいる。今は炭焼きオヤジだがその風体は色付き眼鏡に口ひげで、歓楽街の呼び込みのおっさんのような風体でキャラもそっち系。「お兄さん、いい子いるよ!遊んでいきな!」と呼びこんで炭を高値で売り付けてぼったくるような怪しい顔つき。最近は炭を焼いたときに出る木酢で手広く商売しているらしい。

 その他、ジャズ狂いしてUSAまで聴きに行くおっさんや、元消防のレスキューなど濃い人ならいくらでも思い浮かぶが恋人と言う概念は全く浮かんでこない。野人の土地だ。

 近々、この初越に新たな住民が誕生するらしい。しかも、類は友を呼ぶでこれまた濃い人。移り住むのはカン太君のおとっつぁんで、昔牛小屋だった小屋の二階おとっつぁんが移り住み、下の階にはお馬さんと合鴨が引っ越してくる計画だ。おとっつぁんはお馬さん中心の生活をしているので、自分の居住は二の次みたいだけど、この元牛小屋、水道がない。近くに「初越の水」と言う水くみ場があって恋人たちが水飲んでいるみたいだけど、それをバケツで汲んできてお馬さんと自分の飲料水にするらしい。トイレもないけど近くに公衆トイレがある。

 そして、電気がない。ポータブル電源を手に入れて、仕事先で充電して生活しようとおとっつぁんはもくろんでいる。もはや定住するホームレスで青いビニールシートがないだけかもしれない。

 濃い人たちが手入れした森や小道に恋人たちが来る。

 地名よりも人材の方が観光名所かもしれない。地元的には。

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