トランプ政権になって米国は華為の通信網拡張にブレーキをかけたが、今のところ限界を見せている。米国の一部の主要同盟国は米国に同調したが、米中の間で顔色を伺う国々も少なくない。また、すでに華為の通信装備を設置した国の場合には、他社の製品に交換すれば莫大な費用が必要となるという問題もある。
華為の任正非・創業者兼最高経営者が2019年2月18日、BBC放送のインタビューに答えている。彼は当時「米国が我々を倒す方法はない」と明らかにした=BBC画面より//ハンギョレ新聞社
中国最大の通信装備企業である華為(ファーウェイ)が先月3日、対米決死抗戦を誓う社内行事を行った。行事の名称は「退路がなくとも勝利の道へ-軍団創設大会」。行事の名称だけ見れば、あたかも軍隊の新たな部隊の創設大会のようだ。軍事用語をしばしば使うと言われる任正非・創業者兼最高経営者(77)のスタイルが反映されたものだが、この会社が今向き合っている切迫した状況と同時に、これを克服せんとする断固たる意志が読みとれる。
中国官営「グローバル・タイムズ」の報道によれば、創業者の任氏はこの行事で役員・職員らに向けて「平和は闘争を通じて勝ち取ることができる。我々は今後30年間の平和な環境を作るために、死力を尽くして努力しなければならず、英雄的な犠牲を払わなければならない。そうしてこそ何人(なにびと)も我々を困らせることができなくなる」と話した。さらに「我々は自らと祖国のために命を捧げる」と語った。米国の制裁初期である2019年2月、英国のBBCとのインタビューで彼は「米国が我々を倒す方法はない」として、抗戦の意志を明らかにしたが、その時よりさらに悲壮感が感じられる。
華為がこの日創設した「軍団」は、石炭鉱山・港湾・スマート高速道路・データセンターエネルギー・スマート光発電の5つで、制裁の影響を相対的にあまり受けない分野だ。この「軍団」組織は、基礎研究者と技術・商品・マーケティング・アフターサービスなど各分野の専門家を一部門にまとめて業務効率を最大化しようとするものだ。華為内部の消息筋は、「グローバル・タイムズ」に「優秀人材を集中的に投じて突破口を作り、新しい成長エンジンを創出しようとするもの」と話した。
華為のこうした動きは、米国の制裁で被った打撃を考慮すれば十分に理解できる。2018年から華為に対する攻勢を始めた米国は、2019年5月には華為を完全に貿易制裁対象企業として登載し、米国企業らが政府の承認なしには華為と取引できないようにした。さらに2020年9月には、これを米国製の装備を使って部品を生産した外国企業にも適用することにより、華為に対する半導体の供給を事実上遮断した。これに伴い、一時は世界最大のスマートフォンメーカーとなった華為は、スマートフォン事業で“壊滅的”な打撃を受けた。
華為は今年第1~第3四半期の売上が4558億中国元(約8兆1900億円)で、前年同期より32.1%も減少した。売上の減少額は2155億中国元(約3兆8700億円)に達する。売上減少の大部分はスマートフォン事業で発生した。華為は、半導体チップの調達が継続的に困難になると、昨年11月に中低価格スマートフォン・ブランドの「オナー」(Honor)を中国の深セン地方政府が大株主であるコンソーシアムに売却した。
しかし、華為の郭平・循環会長は、今年第3四半期の実績発表文で「B2C(企業と消費者間の取引)事業部門は大きな打撃を受けた反面、B2B(企業間取引)事業部門は依然として安定的」と明らかにした。実際、華為の事業構造のもう一つの軸である通信装備部門は相対的に安定的だと把握されている。通信装備部門は中長期の契約が多いという企業顧客の特性が反映されたものとみられる。
市場調査機関の米国デローログループが集計した資料によれば、華為は世界の通信装備市場で2015年以来6年連続で首位を守っている。市場シェアは2019年の28%から昨年は31%まで高まり、米国による制裁の余波で今年上半期には28.8%に下落した。しかし、依然として2、3位との格差が大きい。スウェーデンのエリクソンは、昨年の14.7%から今年第3四半期には15%となり、小幅に上がったが、フィンランドのノキアは同じ期間に15.4%から14.9%に逆に下落した。サムスン電子は同じ期間に2.4%から3.2%にシェアを高めた。米国のシスコシステムズは、2015年には8%水準だったが現在は6~7%水準で留まっている。米国が華為制裁をするなかで代案として掲げたオープンLAN(開放型無線ネットワーク)供給業者のシェアは僅かな水準だ。米国が華為の通信装備市場優位の構図を揺さぶれずにいるという話だ。
その背景には、華為が価格競争力と同時に、強固な技術力を備えている点も作用している。華為は2019年から商用化が始まった5世代移動通信(5G)標準の競争で優位を占めている。ドイツの知的財産権調査機関のIPlyticsが先月発表した報告書「誰が5G特許競争を主導するのか」によれば、今年9月現在で華為が世界の5G有効特許の15.9%を保有し、1位を占めた。業界が認める5G技術標準寄与度でも華為が23.2%で1位だった。
華為のこうした成長の裏面には、自社の技術開発努力もあるが、中国政府の一帯一路政策とデジタルシルクロード政策も大きく貢献した。習近平中国国家主席は、就任初期の2013年から中国と東南アジア、中央アジア、アフリカ、欧州を陸路と海路で連結し、経済圏を形成する一帯一路政策を推進した。さらに2015年からは、一帯一路の参加国家に通信ネットワーク、クラウドコンピューティングなどを支援するデジタルシルクロード政策を展開した。この事業に参加する華為のような中国企業も補助金を受けた。その結果、アフリカの場合、華為がアフリカの4G通信ネットワークの70%を設置した。
トランプ政権になって米国は華為の通信網拡張にブレーキをかけたが、今のところ限界を見せている。米国の一部の主要同盟国は米国に同調したが、米中の間で顔色を伺う国々も少なくない。一方では米国の懸念を減らし、他の一方では中国を刺激したくないためだ。また、すでに華為の通信装備を設置した国の場合には、他社製品に交換するならば莫大な費用が必要になるという問題もある。4Gと5Gの技術が連動しているため、華為の4G技術を採択した場合には5Gも華為製品を採択することが費用と効率の面ではるかに有利だ。
米国の外交問題評議会(CFR)が今年3月基準で各国の政策を調査した結果によれば、米国の要求を受け入れて華為製の装備を直ちに禁止した国は8カ国。英国、オーストラリアなど「ファイブアイズ」所属国と日本などがここに含まれる。インド、フランスなど一部の国は、正式に禁止を宣言してはいないが、自国企業に華為との再契約をしない方向を勧告している。しかし、オランダ、アイスランド、トルコ、ハンガリーのようなNATO加盟国とサウジアラビア、アラブ首長国連邦のような中東国家は、華為の製品使用を維持している。CFRは「米国の圧迫が一部では成功を収めているが、限界に直面しているようだ」として「情報共有・安保条約の損失リスクが、米国との公式同盟国でない国々を説得できない可能性がある」と分析した。評議会は主な理由として、米国が華為の装備に代わりうる競争力ある代案を提供できていない点を挙げた。
国家的な次元でも米中間の5G競争力の格差は大きく開いている。ハーバード大学国際問題研究所のベルファー・センター(Belfer Center)は、今月の初めの報告書(「米中間の巨大な技術競争」)で、昨年末基準で5G加入者は中国1億5千万人・米国600万人、5G基地局は中国70万カ所・米国5万カ所、5G平均速度は中国300Mbps・米国60Mbpsと、格差が生じているとし「ほとんどすべての主要な指標が、中国による5G未来支配という予測を支持している」と分析した。米国が焦燥を感じるのも無理はない。
これに伴い、米国は中国の通信企業などに対する孤立化戦略を持続し、他方では6G技術の先行獲得に拍車をかけている。ジョー・バイデン米大統領は先月11日、国家安保憂慮を理由に、華為や中興通訊(ZTE)などの中国通信装備企業の製品を米国の通信網で使用できなくする「保安装備法」に署名した。またバイデン大統領は今年、文在寅(ムン・ジェイン)大統領を含め日本や英国などの首脳との会談で、5G・6G技術の開発に共同投資するとの共同声明を出した。
米中が通信技術をめぐって激しく競争を行うのは、この技術が経済的波及効果のみならず、安保次元でも重要な役割をするためだ。移動通信は初期は音声通話が中心だったが、3Gからはデータ通信に転換され、データの伝送速度を速くする方向で発展してきた。5Gは、4Gよりデータ伝送速度が20倍も速いという特性だけでなく、使用者グループが人からサーバーと機器間の通信に拡張された。自動運転、遠隔医療、モノのインターネット、人工知能(AI)、ビッグデータなど第4次産業革命の基盤技術になったわけだ。6Gでは、5Gで種がまかれたこうした産業間の融複合技術とサービスがさらに発展した形で発現すると予想される。このような技術は、宇宙技術と最先端の軍事システムでも重要な役割を果たす。米中が死活をかけて5G・6G開発にまい進するのもそのためだ。
//ハンギョレ新聞社
パク・ヒョン論説委員|1994年から経済・国際・社会部で主に勤務し、ワシントン特派員・国際部長・経済部長・副局長などを務めた。特派員時代にはオバマ-習近平首脳会談、米国の対外政策と軍産複合体などを取材し、2015年には米国のTHAAD配備意図を暴露した報道で寛勲言論賞国際報道賞を受賞した。新型コロナ事態の直前までアリババなど中国の主要先端企業と金融会社の発展の姿を現場取材した。G2の覇権競争が韓国経済と朝鮮半島に及ぼす影響を探求している。
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